バールディスティニー







惑星エアデール。
水に恵まれ、気温に恵まれ、『武』の気に恵まれた星。
大陸は西と東に別れ、主人公達の住む大陸は西の『アルトル』。急激に進んだ文明と自然の破滅。そして、黒き大気に覆い包まれていた。
その黒き大気は光をも遮断してしまい、西の大地は暗闇の地と化していた。
その黒い大気を『ブラッツ』と、西の人間は言う。
そして、『ブラッツ』と似た本質の化物『バール』が、各地に散乱していた。

楽兎(ラクト)「…リリ」
屋根裏を足音無しで進む『楽兎(ラクト)』と『リリ』。
楽兎は金網の下の、黒い髪をし黒い眼球に赤い瞳をした黒ずくめの男を見つめ、決意を固める。
楽兎の恋人は、重い病に侵されていた。その手術代を出すにはどうしても、指名手配の首を取るしかなかった。

クロ「ふむ。今日も指名手配者狩りか。何故あの方は政府、あのサナトに手を貸すのか…。全く理解できませんなぁ」

楽兎「伸びな如意刃刀!!」
この世界には、『武』と言われる能力と、『ウェポン』と呼ばれる兵器が存在する。人々はそれで戦い、食う。
ウェポンの真価を発動するには武が必要になる。
武力も色々な種類があり、様々な使い道があるのだ。
クロ「シルヴァー・エクセレント!!」
クロの『銀色の糸』が天井を切り裂く。
リリ「きゃ!!」
天井から落下するリリ。
ガシャアァン
クロ「ふむ、鼠が二人、いや、ニ匹。最近我が『デッドストラクチャー』組織に関連する建物を奇襲する子供が存在する、と聞いたが……」
楽兎「テメェ!ぶっ殺す!!」
クロ「無駄だ」
クロが腕を二回降ると、楽兎のウェポン『氷王剣』に銀の糸が渦巻く。
クンッ、と引っ張るクロ。
しかし、クロの思ったようにはならなかった。
クロ「ふむ、唯のウェポンではないらしい。切断等たやすいと思ったが、ね。その君の武力『鈴(リン)』の無防備さ、そして、レヴェルの低さといい」
楽兎「引けないなら」
クロ「やってみるがいい。まだ右手の糸があるぞ!」
クロの腕が二回しなる。
リリ「ヴァルキリー・ステイン!!」
金髪の女性リリが右手を上にかざすと、神々しい光が辺りに覆われた。
クロ「…ッ」
光は段々消えてゆく。
そして、楽兎やリリの姿も消えた。
転移移動能力。これも『ウェポン』の力である。
クロ「暗殺失敗。ふむ。まあ、今のは仕様が無いではないか」

―月の館―
楽兎「何でだ!何で武を発動した!リリ!」
リリ「だ、だって…。絶対殺されると思ったからッ!!」
楽兎「何だと…?」
柏木(カシワギ)「ぐはははっ!!また首取失敗か。おいおい頑張れよ楽兎!!」
楽兎「柏木……ッ」
不知火(シラヌイ)「大丈夫です。楽兎君。麗那(レイナ)さんはまだ落ち着いてます」
楽兎「あと何ヶ月持つ!?」
不知火「そんな事…僕が知っているとでも!?」
貞弘(サダヒロ)「楽兎、耳貸せや」
と言い、貞弘は楽兎にこっそりと教える。
余命――2ヶ月。
貞弘「で、よ。こうなったら俺達も力貸すぜ。バールを殺すのは…、無理にしろ、低ランク指名手配位なら楽勝だろ?柏木さんも居る。」
いきなり柏木のテンションが上がったのか、落ち着きが無くなってきた。
貞弘「最近隣の5番街で暴れ中の『トレノ一味』。奴らを捕まえようぜ」
楽兎「…わかった。明日、でいいか?」
貞弘「…あと、麗那にはリリが付いていた方がいい。行くのは俺、柏木さん、不知火、お前と…」
ピーッ
暗証番号が鳴り、ドアが開く。
壬空(ミソラ)「何やってんだよ?」
貞弘「壬空さんだ。後戻りは利かねぇ、陣形『クロスランス』。わかったか」
楽兎「わーったよ。…22時か。俺はもう寝るぜ」

不知火「楽兎君」
楽兎「あァ!?俺はもう寝んだよ!!」
不知火「君は、まだまだ弱い。そこら辺は知っておいて下さい」
カチャ…
楽兎「…チッ」

~こちら5番街~、~こちら5番街でございます。~
楽兎「お前等知ってんのか、トレノのアジトをよ」
不知火「僕の情報網をなめないで下さい。場所に関しては既に柏木さんと壬空さんに伝えてあります!!遅れを取らないように!!」

柏木「ここだな。見えるか、壬空」
柏木が言うと、壬空はスコープを取り出す。
壬空「バリバリ見える。暗証番号は…」
カタ、カタカタカタカタ
ヴィィ…ン
見えない扉が姿を現した。
柏木「俺に続け!!」
雑魚A「な、何だ貴様等!!」
壬空「如意刃刀!!」
蒼い刀が伸び、辺りを一閃する。
ズバババババッ
壬空「ひゃっほう♪気持ちいい~!!」
どんどん先へ進む楽兎達。が、しかし待ち受ける一人の女が居た。
テルト「トレノの元には行かせないわ。行け!精鋭達よ!!」
雑魚B「そんな伸びるだけのウェポンが我々に通用すると思ったか!!」
ズギャギャギャギャ
辺りの精鋭達が途端に見えない『何か』に喰われてゆく
テルト「な、何?何が起きているの!?」
壬空「蒼龍剣『如意刃刀』はオトリ。朱雀剣『朧』。見えない龍を捕まえる事ができるかしら?!」
雑魚B「くっ…」
貞弘「…死斑刀。『縄張り』!!」
雑魚B「…何だこの臭いは!!」
雑魚C「ぎゃあああーーーッ!!」
テルト「な…ッ」
不知火「飛針刀…」
柏木「止まったぞ。やれ」
不知火「『刃の雨』!!」
ドガガガガガッ!!
刃の雨がテルトに当たる――
柏木「全掃」
楽兎「(チッ、俺は足手まといって事か!)」
不知火「テルト。こいつも指名手配ですね」
柏木「…次はトレノだ。ゆくぞ!!」
エレベーターに乗り、最上階6階に着く。
柏木が刀を構え、何かをぶつぶつと言い出した。
柏木「『デビルチャクラム』!!」
柏木の目の前に三つの巨大なリングが現れ、次第に高速回転してゆく。
ドヒュッ…
ズギャギャギャギャ!!
そのリングは壁や床を破壊しながら奥へと激しく突き進む。
そのリングはやがて一人の男の目の前で回転しながら空中浮遊する。
トレノ「な、何なんだこれはぁッ!!」
やがて三つのリングがトレノの体の周りに入り、超高速回転してゆく。
柏木「そのチャクラムに触れると、削れるぞ?そういう仕組みになってるんだ」
トレノが目の前のリングに指を近づけると――
ジャリッ!!
トレノ「ぎ、ぎぃぃやぁああーーーッ!!俺のッ!俺の指がぁーー!!」
柏木「ふん、一つで充分だったかのー?」
不知火「やれやれ、どっちが悪役かわかりませんね」
柏木「不知火!とくと覚えておけ。このアルトルというドームに『正義』と『悪』等存在せんのだ…!!」
楽兎「こりゃ、昨日やった奴より弱ぇな」
柏木「ほざけ!俺が強いんだ…。はっはっはっはっはっ!!」

警察「これが、賞金です。トレノ一味は5番街ではとんだ疫病でした。助かりました」
柏木「ふん、そう思うのならば貴様達警察が動けば良かったのだ。賞金は頂いていくぞ!!」
警察「そ、そうですよね…。そうなんです、よね…。しかし…、すいませんでした」

楽兎「何ぼだった?」
柏木「これで合計480,000カロだ。手術代にはあと20,000カロ足りんな」
貞弘「ようは小物をあと一人捕まえればいいって訳ですか」
不知火「…、ちょっと今日は活躍できませんでしたね、貞弘」
貞弘「…お前…、こんな奴の為にまた一肌脱ぐつもりか?」
不知火「いけませんか?」
貞弘「チッ」

壬空「フフッ、あいつらいっつもああやって手伝ってくれるんだから!感謝しろよ?我が弟よ♪」
楽兎「そう…だな」







4番街 6:30 ―月の館―
リリ「御飯ですよ~!!」
柏木「ほう、これはまたまずそうな肉じゃがだな。何ともコメントが付け難い」
リリ「ああ、じゃあ鋼のは抜き。で、まだ帰ってこないの?不知火とサダは」
楽兎「どーせまた自分等より強い首を狩りに行ったんだろ」
(リリン…)
柏木「来るぞ!!」
楽兎「んだと!?」
柏木「…。誰か体に異変を感じる奴はいないか?今光速と言っていい程の速さでこのアジトの何かを『変えられた』。『鈴』が速テンポで2回鳴ったからだ。間違いない」
リリ「体に?いや」
楽兎「それより飯食おうぜ、うわっマズそうな飯だ」
リリ「とかなんとか言って食べるんでしょ?」
楽兎「たりめえ」
柏木「…武の軌跡はくっきりと残っているな。『滅(メツ)』は使えない性質か」
楽兎「こんなモン正直麗那に食わしたくねえよ」
柏木が武の跡を辿って金庫を開ける
柏木「楽兎!!」
楽兎「あ?」
柏木「すぐ仕度をせい。追うぞ。金を盗んだ人間を!!」
楽兎「…盗まれただと!?」
柏木「先に行ってるぞ!」
楽兎はよく状況を掴めないまま、金庫を見る。
楽兎「…盗まれてやがる!!武の軌跡とか言ってたな…、柏木…」
リリ「こんな時には『見(ケン)』だよ!!先行ってるね!!」
楽兎「チッ、どいつもこいつも馬鹿にしやがって!!」

同日6:59
―7番街―
ラータ「はぁ…、はぁ…。このお金でお母さんも助かるぞ…!!」
最南東に属する7番街。気温は尋常ではない。
ルンド「何やってんだい、お嬢ちゃん?」
ビナーレ「やめなよ兄貴、こんな小汚いガキを相手にすんのは!!」
ラータ「!!その紅装束は…!『紅闘士団(クレナイトウシダン)』…!?ハッ…、もう、疲れて『武』も使えないや…」
パタン
ルンド「…、この盗んだ紅装束も便利やら不便なのやらわからんブツだな」
ビナーレ「着るだけで武力が湧き出てくるんだもん♪損は無い無い♪」
ルンド「で、この倒れた女をどうするか、だな。結構やつれてるぞ。日光が存在しないとはいえ、この暑さだ。放っておいたら、死ぬ」
ビナーレ「さてはて?優しいお兄さんはこの後どうするのでしょう?」
ルンド「とりあえず安全な5番街まで運んでやるか」
少女を背負う盗賊兄弟の兄、ルンド
ラータ「やめ…て。5番街は…、やめ…」
ルンド「なんでだよ?」
ラータ「あたし…、4番街からお金盗んで逃げてきたの…。だから…、戻るのだけ…は…」
ルンド「お前、滅は使えないのか?」
身体から力が失せ、今にも気絶しそうなラータ。
ラータ「使…え…ない。」
ルンド「…、どうする?ウェポンをここに捨てて…」
ラータ「ダメ」
ルンド「困ったねぇ。右周りできないとなると、デッドストラクチャーやリライヴクロスが存在する左側に行く事になるんだよなあ…」
ビナーレ「8番街は駄目なの?」
ルンド「暑さはそんなに変わらん」
ビナーレ「9番街は?」
ルンド「デッドストラクチャー本拠地のお隣りさんだ。危険だぜ」
ビナーレ「となると、」
ルンド「と、まあ滅状態なら5番街でもばれやしねえ。俺の武力も合わせれば万事オーケーだ。その代わり、お嬢ちゃんには滅状態になってもらう為気を失ってもらうがな」
ビナーレ「わかってんのかねぇ?その子、『バール』だよ?」
ルンド「知ってらあ。だが、こいつに罪は無いんだ。『怨(オン)』が感じられないだろうが」
ラータ「…」
ルンド「お嬢ちゃん。一眠りする前に一つ聞いていいか?」
一搾りの声を懸命に吐くラータ。
ラータ「はい」
ルンド「何日前に窃盗を行った?」
ラータ「…約、30分前…」
バキ
ルンドがラータの首ねっこを強打し、気絶させる。
ビナーレ「やっぱり…、バールだよコイツ。人並み外れた身体能力と、人並み外れた武力。R13トレインより速く動くなんて、人間にはできない」
ルンド「こいつは何も罪は侵しちゃいねえ。それよりビナーレ。能力はまだ続くか?」
ビナーレ「インフィニティコマンダー?それとも、ビーストコマンダー」
ルンド「余裕そうだな。じゃあ、とびっきり移動速度の速いバールを召喚しろ」
ビナーレ「無理っす。バールクラスとなると言う事を聞いてくれません!!」
ルンド「じゃあ動物でも魔獣でもいいから出しやがれよ。互拓はいいからよ」
ビナーレ「ほいほい。…いでよ!!」
巨大な魔鳥が姿を現す。
ルンド「…これは制御効くのか?」
ビナーレ「それ互拓っすよ」
ルンド「わーったよ。しっかり捕まってろよ、ラータ」

5番街 同日10:40
ルンド「さて…と。ビナーレ、気温能力消してもいいぞ。ただし滅状態は忘れんな」
ビナーレ「疲れたぁ~」
ルンド「ま、文句言うな。…ここら辺にゃ空き地は無ぇみてぇだな。空中に『建てる』か」
少し笑うルンド。
ルンド「インシュレーションメイク」
ルンドが言葉を放ったその時、空中にハウスが出来る。
ビナーレ「今度は家作ったのね…、かなり、消耗したでしょ?」
ルンド「まあな、さて、早い所俺達もあそこに入るぜ。あのハウスは強制『滅』状態だから安心だ」

インシュレーションハウスの中は、水、ガス、電気、家庭製品も殆ど揃っていた。
だが、それ同様に武力を消耗するルンド。
平然としていられる訳もなく、金髪の男ルンドはベッドに寝込む。
ビナーレ「だから絶縁服位にしとけばよかったのに、アホ兄」
と、言いながらビナーレも寝込む。

6番街 同日23:30
車で突き走る柏木と、ウェポン『ブーストバースト』で空を飛ぶ壬空。
柏木「くそっ…、列車無しで何処まで行きおった!?」
壬空「だけど、武の軌跡は濃く残ってるよ。でも、もしかしたら…、この軌跡の荒さは…」
楽兎「くそ、暑ぃ…」
柏木「何だって言うんだ!!」
壬空「『バール』の可能性が高い。同時刻にアジトから出たんだ、こんなに差を付けられるのは『バール』以外の何者でもないよ」
リリ「万一、そのバールと当たってお金を取り返せる可能性はあるの!?」
柏木「黙ってろォ!!」
壬空「もうちょっとは飛ばせないのかい?その車は。なんなら、柏木達がR13トレインで行動してあたしが軌跡を辿ろうか?」
楽兎「わかってんのか姉貴、次はあの灼熱地獄『7番街』だぞ?」
壬空「さあね、行った事も無いから何とも。今の気温でも今にも気絶しそうだし」
リリ「もういいよ!!そこまでして追う必要無いじゃん!また一からやり直せばいいじゃん!」
楽兎「あと2週間で何カロ貯めれると思ってんだてめーは」
リリ「そんなの…、そんなの…」
楽兎「帰りたきゃ一人で帰れよ、へっ、水代わりにガソリンや尿飲む気力が無けりゃ生き残れないぜ」
柏木「リリには最後まで居てもらわんと、万一の時に死んでしまうからのう、頼むぞ」
リリ「そんな…ッ!!」
プルールルール♪
リリの携帯が鳴る。
リリ「なに?メール…?」

————
この番号に電話をかけてもらおう。
不知火戒と
千里貞弘の身柄は預かった。
只今拷問中☆
****-****-****
組織デッドストラクチャー
『死四駒』タナトス
————







リリ「は、鋼(ハガネ)…。これ…」
柏木「わしは今運転だけで精一杯だ。楽兎に見せてやれ」
楽兎「なになに、…あァ!?あの馬鹿二人捕まりやがったぞ!!」
壬空「誰から?」
楽兎「タナトス…」
柏木「!!」
ギギ、ギギィ!!
突然車を止める柏木。
楽兎とリリが反動で激しく前頭部を打つ。
柏木「壬空。タナトスとは、デッドストラクチャーのあの奴か」
壬空「…携帯見せて」
リリが頭をクラクラさせながらも壬空にメールを見せる。
壬空「10番街にワープ!リリ、早く!!」
リリ「で、でも…、電話しろって書いてあるよ?」
壬空「特殊ウイルスを使った罠に決まっている!!そんな事より早くあたし達を10番街に送るんだ、リリ!!」

デッドストラクチャー本拠地
プシュ
不知火「ぐっ…」
ズチュ
不知火「…ああッ!!」
プシュ
不知火「や、ああ!!」
クロ「ふむ、なかなか色がある声を出すじゃないか?」
タナトス「ケケケ、こいつ、女なんじゃない?ぜってえ付いてねえよ。蹴ってみようかあ?」
クロ「左様で。…どうぞ」
両腕を鎖で繋がれた不知火の股間を、鉄板入りの靴で蹴る。
バキッ!!
不知火「ぐ、ぐあああああああああああああ!!」
タナトス「男?勿体ねぇなあ不知火戒。そんな可愛い面して男?改造してやってもいいぞ?ほら、何とか言えや?」
不知火「…さ…ツッ…!貞弘はどうした…」
タナトス「ああ、四死駒の俺様が直々に拷問してやったよ。指を変形させてな、こう」
と、言うと、タナトスは自分の指を複数回折り、この指がおぞましい形に変化する。
背筋が凍る不知火。この時、何かを予感した。
不知火「さ、貞弘ーーーーッ!!無事か!!無事か!!!!」
タナトスの指が少しづつ不知火の体内に入ってゆく。
不知火「ああああああああああああ!!!!」
クロ「同性愛というやつですかね?全く、気色の悪い…」
(リン…)
タナトスが膨大な『武力』に気付く。
タナトス「不知火よお、『俺は』これ位で勘弁してやるよ。最後に教えてやろうか?ウン?」
不知火「…なに…」
タナトス「貴様等『ア・レイド』は、俺達の目に止まっている。こういう立場になってもしょうがないんだぜ。…あばよ」
シュン…
不知火「(消えた…だと!?)黒ずくめの男。…貴様に…聞きたい事があるッ」
クロ「何だね?」
不知火「この甚大な武力は何だ――」
ドオオオオッ!!
白き炎が瞬時に広がり、一人の男が現れる。味方なのか、敵なのかは不知火にはわからなかった。
不知火「なッ…!!」
クロ「キ、キース様ッ!!」
キース「よう。…何してんだい?随分『処理係』がレディーを痛め付けているようだが、俺はこんな女は知らん」
クロ「キース様ッ!こ、こいつはアレイドの肩われでして!!」
キース「ふん。で、何だ、拷問か。レディーをこんな目に?」
クロ「ち、違います!タナトス様が…!」
突然空中に浮くキース。
キース「黙れ処理係」
バキッ
クロ「ゲハッ…!!」
不知火「(な、何だこの男は…!空中に飛び、いや、浮き—、軌道を変えた!?そんな馬鹿な…!)」
キース「レディー。お前の仲間はな、俺達の仲間の命を奪ったんだぜ」
不知火「そ、そんな事は私は知らない!!そんな事より、くる、燃え移る!!白い炎が!!」
キース「無事だ。『白い方は』あまり熱くない。…どうやら捕まったのは二人だけのようだな。どちらも、真実を知らない純粋な目だ」
不知火「…ッ」
安堵で気を失う不知火。
キース「さて、と。レディーともう片方は解放してやるか。コイツ等を痛ぶっても、何も得る物は無い。『ナインルーズ』、奴ももう還ってこない。タナトスには悪いが、な」

―デッドストラクチャー本拠地・入口―
神々しい光が辺りを包む。
楽兎「ここか。随分と暗い場所だぜ、明かりはねぇのか?」
タナトス「イグジステンストルネード!!」
バキギギ!!
瞬間的にその場に現れ、上下逆さの体で両足のキックを浴びせる。
楽兎達は真に喰らい、動けなくなる。それ程タナトスの武力と体術は優れていた。
だが、
壬空「ここに現れるという事、読んでいたのね」
タナトス「ケケ、偶然だ。まさか転移の術を以っていたとは思わなかったが…、裏目に出たな?壬空よォ!!てめぇ、あのナインルーズを殺した『木道蘭花(モクドウ ランカ)』の仲間だろうがよ。ケッ、ケケ。相棒をよくも殺ってくれたなァ?」
壬空「恨みを持っているのはそちらさんだけじゃないさ。あんたらは、蘭花を殺したじゃないか」
タナトス「ぐちぐちと抜かしながら、貴様も読んでいたんだろう?俺様が奇襲する事を読み、後ろに飛んだ!仲間は見捨ててなァ!なあ!?」
壬空は空中に飛びながら見降ろして挑発する。
壬空「何一人で必死になってんの?」
タナトス「てめェェーーッ!!」
ギャリリリリリリリリリ
タナトスの目の前を禍々しく飛び回るリング。
タナトス「これは…、クク、覚えてるぞ。デビルチャクラム。柏木か」
柏木「幾ら貴様とて、2対1では勝てまい。シャクだがな」
タナトス「はは。降参だ」
そう言い、両手を上げるタナトス
柏木「フン!雑魚が――」
壬空「馬鹿!罠だ!!!」
ドゥン
ドドゴ…!!
柏木「グボ…ががががが」
タナトスの両腕が体から発射され、柏木の体をえぐる。
タナトス「雑魚はどっちだ。でかいだけの脳無しめ。‥ああ、そうだ。そのロケットパンチは所謂『武力』でな、一度敵を殴ったら貫通するまで離れないような性質にしてある。…腹部と胸。貴様は死ぬよ。ざまあみろ」
壬空「この…ッ!!朱雀剣『朧』!!」
ズガガガガガガガ
ドゴォ…ン!!
壁に叩き付けられるタナトス。
タナトス「…クククク!!貴様も奇襲好きだね、壬空。さあ、喰い潰すがいい。俺様はちょっとやそっと喰われた位では死ねんがな!!ハハハハハハッ!」
バグチュ
タナトス「また、殺し合おう――」
胴体を喰われるタナトス。
壬空「柏木!!」
柏木「壬空ァ!!」
柏木の元気を偽った声に、驚く壬空。
壬空「何よ!大丈夫なら……」
柏木「わしの遺骨は…!!日と海が見える丘に埋めてくれると約束するか!!」
壬空「ま、まさか――」
彼の体に込めた武力は限界を超えていた。
ドシュ…
柏木の体を貫通するタナトスの二つの腕。
壬空「そん…な…!!そんな無理を託さないでよ!そんな無理言って死なないでよ!!馬鹿!馬鹿!!」

―第5番街―
ルンド「…くぁ…大分寝たな…」
ビナーレの眠る部屋に入るルンド。
ルンド「あちゃ、こいつまだ寝てやがる…。無理させ過ぎたな…」
ラータが眠る部屋へ入るルンド。
そこでルンドが目にしたものは――
ルンド「――逃げられちまったぜ、おいおい。」
置き手紙を見つけるルンド。
カサッ
ルンド「…はは、まあ、幸せに暮らせよ」
その手紙に書いてあった言葉は、感謝と一喝であった。
ルンド「ふん…おい!起きろビナーレ!!」
ビナーレ「…な、なんスかー?」
ルンド「第7番街に戻るぜ。『紅闘士団』と合流しなければならねえ」
ビナーレ「もう…?いや、やっと行くんだね。このドームの中心地、あの『月の塔』に」

―半日後―
氷女人(ヒョウメジン)「酷い有様ですね…、これは」
タナトス「あア!?何見て言ってやがる!!」
氷女人「私が13番街の北極の地に向かっていた内に、一体何が?」
タナトス「来たのさ。ア・レイドがな!」
氷女人「それで、みすみす逃がしたと。それでそんな上半身のみにされた貴方は何をぬくぬくと食事を?」
タナトス「上半身のみっていうのも楽だぜ、体重が半分になるんだからな!!ケケケ!!」
氷女人「上半身のみで人並み以上の生活ができるのは貴方位のものです。……で……、スーパーウェポンは?」
タナトス「あ…。悪ぃ。そいつの事すっかり忘れてたわ」
氷女人「……それで、貴方なりの成果は得られたのですか?」
タナトス「柏木殺した」
氷女人「それで…?」
タナトス「後はキースが全員逃がしちまったよ。レディーがなんとか、ってな」
氷女人「役立たずですね……彼も。まあいいでしょう。次は必ずあちらから来ます。その理由はわかりますね?人間の貴方には」
タナトス「ケッ、何とはなしにな。で、『バール』の貴様にはわからない訳だ!!全く、面白い素体だ。『インフォスフィア』が創ったブラッツの賜物はな!!」







7番街
ルンド「チッ、よりによって『リライブクロス』までいやがるぜ」
ルンド達は外から『セト遺跡の中』を見ていた。セト遺跡には絶縁服とカメラを設置したモンスターを向かわせ、ルンド達はそのモニターを見ている。
ビナーレ「で、でも。リライブクロスが居るって事は…」
ルンド「…インフォスフィア関連だろうな。『リライブクロス』、ヤツラにはこの大陸の中心部『月への階段』に入る術がある。そして、このドームの外に出て…、さて、どうだろうな」

―セト遺跡―
『紅闘士団』と『リライブクロス』による『神殺し』の対談が行われていた。
エーテル「デッドストラクチャーの連中は、何で呼ばなかったんだ?奴等は癖こそあるけど強いぜ。まあ、俺達紅闘士団の比じゃないけど」
ポナーク「確かに、エーテル様のおっしゃる通りであります。彼等はまあ強い。君達『リライブクロス』よりは使える逸材だと思うが」
ポナークの頭を殴るエーテル
エーテル「お前は黙ってろ、ちょっと場違いだぞ」
リライブクロス側から笑い声が零れる。
そんな中、ポナークの挑発に乗り怒りに震える男が居た。
リライブクロス副団長のグランである。
グラン「これは親善会議ではないのか…?」
ポナーク「親善?貴様等とか。…つまらない冗談だ。ふん、簡潔に言うとね、貴様等のその特殊な『月への階段』に繋がる術をせいぜい利用させてもらうだけなんだ。私達はな」
紅闘士団団長の『シデン』が立ち上がり、ポナークへ鉄拳を入れる。
バキッ
ポナーク「は…ッ!!」
シデン「口が過ぎるぜ、お前少し黙っとけ」
ポナーク「す、すいませんでしたッ!!相手は敵なので…。許して下さい」
紅闘士団のクジンが指を曲げ、腕を上げる。
クジン「これは遊びではないのだからな」
紅闘士団とリライブクロス一同の周りに大きな鍵の集合が現れる。
ポナーク「お許し下さい…!!」
グラン「これはもしや貴様の今まで殺してきた人間の数に対応しているのか?」
クジン「私がそんなにお人好しに見えるか?これは全員私の能力の犠牲になった、仲間だ」
グランの顔が青冷めてゆく。
沈黙が少し続き、リライブクロス団長金月刹那(カナヅキ セツナ)は答えた。
刹那「デッドストラクチャー。彼等を呼ばなかったのは、できるだけ少数精鋭にする為です」
エーテル「そんな事を言っている場合か?神は強い」
刹那「他にも検討を断った勢力は多々あります。『世界政府』や『ア・レイド』等」
シデンは頷く。そして一言『リライブクロス』に頼んだ。
シデン「率直に言う。俺達を、『月への階段』に転移してくれないか。お前達はその術を持っている」
刹那「貴方の『魔法』とやらは中央部には通用しないのですか?」
シデンは首を降る。
刹那「正直、貴方達に『神』を殺せる器量があるとは思えません。こういう事が言えるのも、私は一度神と対談した事があるからです。確かに彼を殺せば『ブラッツ』は消えるでしょう。しかし、万一でも無駄に神を怒らせ、この地に異変が起きるような事がある可能性があるのならば。貴方達を『月への階段』に送るような事は避けたい」
紅闘士団のナギは、ただその言葉を訊き続けている。
ナギ「……」
「はいはいストップストーップ」
何者かが仲介に入る。
シデン「君は…、ルンド!!」
グラン「何者!!」
ルンド「えーっと、元『紅闘士団』のルンドと申します。で、これが妹のビナーレ」
グラン「貴様、何処から何処まで聴いていた!」
ルンド「初めからっす。…久しぶりだなシデン」
ポナーク「この…、裏切り者が!よくもぬけぬけとッ!!」
ルンド「ところでシデン。約束のブツを渡してもらおうかい」
シデン「あ、ああ。皆すまない、すぐに終わる」
と、シデンが腕から『宝珠』を取り出す。
シデン「久しぶりだね。…君も行くつもりなのか。桃幻郷へ」
ルンド「ま、物好きなんでね」
ビナーレ「あ、あのッ」
シデン「何だい?ビナーレちゃん」
ビナーレ「あ、ありがとうございました!団長!」
シデンが笑みをこぼす。
シデン「なごんだよ」
刹那「桃幻郷とは、何でしょうか?」
シデン「…ああ、聞かれてたか。桃幻郷とは……、精霊が住む世界さ」
グラン「フン、何を馬鹿けた事を!!」
シデン「と、それは俺達がそう呼んでいるだけで、実際は魔法都市みたいなようなものかな。(この時代とははるか離れた古代都市…なんて事は流石に言えないけど。)」
刹那「…それで、取引しようという訳ですか」
シデン「まあ、そういう事だ。…悪いがルンド、桃幻郷はまた今度にしてくれ。」
ルンド「…まあ、最後まで事は見させてもらうぜ」
グラン「その魔法都市とやらは、何番街に存在するのだ?」
シデン「それは言えない。が、…そこに居る人々を納得させる事ができたならば、魔法すら覚える事も不可能ではないよ」
グラン「そんな事を信じろというのか?」
シデン「俺の魔法が、それを物語っているだろ?」
刹那「…わかりました。その宝珠と、『月への階段』の権限。交換しましょう」
グラン「しかし…」
刹那「確かに彼等はウェポン無しで何もかも熟す集団です。信じられない道理ではありません」
シデン「ではグラン。この宝珠を受け取ってくれ。この宝珠を7番街再南端『ファルカッセル城』の祭壇の凹みにはめ込んでくれ。それだけで行ける、簡単だろう?」
グラン「…刹那様」
刹那「わかりました。貴方達を転送しましょう」
シデン「ルンド」
ルンドは何かを受け取る。
ルンド「(これが本物、という訳かい。そしてこの宝珠をかざす本物の祭壇は13番街にある…。ふん。)」
グラン「シデン。我々『リライブクロス』のNo.10までをここに転送しろ。でなければ『月への階段』への儀式が出来んのだ」
シデン「わかった」
ルンド「じゃ、俺達はこれで引きますわ」
ビナーレ「え!?宝珠は?」

―空への螺旋階段―
次々と現れる『紅闘士団』達。
エーテル「あれが…光か!!」
シデン「ふん、僕はね、『神』なんていうのは元々興味が無いんだよ。既に古代都市にも行った。となると」
クジン「東の大陸、か」
シデン「そうさ。さあ、こんな階段等昇る必要は無い!!飛翔するぞ!!」
ドウッ!!
『光』に向かい飛び向かう5人の紅







リライブクロスの少数精鋭が第7番街『ファルカッセル城』に向かった同刻
10番街 ―デッドストラクチャー内部―
壬空「ハァ…ッ!ハァ…!!」
蘭花「…」
壬空「何故何も喋らない!!何故あたしの邪魔をする!何故死んだアンタが生きている!?」
蘭化「…」
ドウ…ン、ドウン!
蘭花の放つ『ロケットランチャー』が壬空を襲う!
壬空「仲間だろ!?お前も、柏木も、刹那も!?」
ドゴォ…ン
タナトス「フン、馬鹿め。蘭花…、奴の骸をそう簡単に逃がすと思ったか、あの肩割れめ。既に奴の体はメカだ。私がいじりたいだけいじったが、どうにも気に入る事の出来なかった『駄作』。…ふん、そろそろ私と下半身も完全に合体する頃か。馬鹿な女だ。『死四駒』が『三人』だけだと思ったか…?大甘だね、ケケケ。」
キース「…」
キースは、タナトスの部屋の前に少し立ち止まった後すぐに立ち去った。

壬空「フランケンにされても、ロボットでも何でも!あたしはアンタを殺す事なんてできないんだよ!!」
蘭花『ケケケケ。単独行動とは無謀だな。壬空よ!』
壬空「その声は、タナトスか!!」
蘭花『クク、御名答、と言った所か。フン、仲間を殺す事はできまい…?この「出来損無い」にも多少の感情は残しておいてある。つまりこの闘いは?そう、楽には終わら――』
ブチッ
肉眼には見えない程の速さで誰かが機械化された蘭花のボイスアンテナを潰す。
キース「…あら?アンテナ壊れちまったが大丈夫なのかい?」
蘭花「…」
壬空「貴様…!死四駒のキースか!?…如意刃刀!!」
キース「フン」
右手で蒼龍剣を受け止める。
ボワッ…!!
キースの両手が黒色に燃え上がる。
キース「レディ。俺はいつでもレディーのミ・カ・タ☆なんだぜ」
壬空「クッ!!威嚇しておいてどこが味方だ!!」
キース「ま…そう見えるだろうね。しかし君も俺をそのウェポンで攻撃した。違うか?レディー。こうするしか、なかったんだ」
壬空「当たり前だ!貴様は敵――」
キース「スネークシェーパー」
ボゥッ…!!
一瞬の事だった。炎が蛇のようにうねり、機械化された蘭花に巻き付き、焼殺した。
壬空「…!!」
キース「と、いう事さ♪」
ヴォン
突然現れる二つの影。
タナトス「イグジステンストルネード」
バギャギャギャギャ
キース「くっ…!!」
氷女人「キース」
キース「…何すか姐さん」
氷女人「あたしもレディー、よね?」
キース「違うな。あんたはバールだ」
その次の瞬間――
タナトス『グギャギャギャギャギャギャッ!!』
次々と『何か』に串刺しにされるタナトス。
タナトスの周りは巨大な『鏡』に囲まれ、鏡はみるみるうちに血色に染まっていく。
刹那「万華鏡。既に付き人である貴女の目では、彼は無限の朱い月にしか見えないでしょう――」
壬空「刹那!刹那~!!」
刹那に抱き付く壬空。
キース「(…迅い!!確か『リライブクロス』の団長だったか――)」
氷女人「…あらあら。タナトス、死んじゃいましたね」
嬉しそうな顔で塵と化したタナトスを見る氷女人。
刹那「貴様…、既に人外の値だな。バールか?」
氷女人「そうです。インフォスフィア様がお造りしになった、バールでございます」
刹那「知っているのですか。『神』の存在を」
氷女人「真上から奇襲攻撃かしら?キース」
氷女人の上空に浮くキース。
キース「アロー…シェイパー!!」
放射能のように白き炎が広がり、黒き炎の矢が雨のように降り注ぐ。
ドガガンドガガン
城内に燃え盛る黒き炎。地面の姿には、キースのウェポンで守られた壬空と刹那、そして……氷女人のウェポン『化固方陣(カコホウジン)』が燃えたまま浮いている。
キース「(化固方陣…、敵を正八面体の殻に封じ込めるウェポン。どのような攻撃でも破壊する事はできない。だが――それを応用しちまえば自分を封じ込めて守る事だって出来る。厄介なウェポンだぜ)」
壬空「もう、片付いたの!?」
キース「フン、レディー二人が俺の事心配してくれてるぜ。こりゃ、いい事あるかもな…」
化固方陣に隠れていた氷女人が、『武』を解放しその姿を表す。
既に、人の形とは言えない氷女人。
キース「……全く、化け物もいい所だね、あんた。…だが、生憎俺の炎で燃やせねえものなんてありゃしねえの。白で焦らし、黒で焦がすのさ」
キースはある決断をする。
キース「スピア…」
氷女人「衝突だ!!人間よ!!」
キース「スピアシェイパー!!」






キース「スピア…シェイパー!!」
氷女人「リフレクション」
氷女人の周りに、バリアーが張られる。
キース「!!…あれは…、『空への螺旋階段』を守る特殊バリアか…。へへ、『そういう事』かよ氷女人!!」
氷女人「結構勘が鋭いわね。そう。『空への螺旋階段』の特殊バリアーは私が造ったものなのさ。インフォスフィア様の為ならば。さあ、この特殊バリアーが貫けるか?化固方陣ですら破壊出来なかった貴様が、この特殊バリアーを破る事ができるか?否、できないな。さあ。来るがいい小僧!!」
キース「…やれやれだな。『スピア』でさえ相打ちで終わりそうなのによ。…ま、やってみようじゃねえか」
炎の槍が変化し、巨大化してゆく。
壬空「あ、あれは…」
キース「最大の武力だぜ。『フェニックスシェイパー』」
ゴウ…、
刹那「…恐らく。このウェポンから外に出たら私達はすぐに焼死してしまうでしょう。全く、壬空から大至急の電話が来たから駆け付けてみれば…、とんだ災難でしたね。」
壬空「ごめんよ~…」
刹那「まあ、『私は』暇だからいいのですけどね。『紅闘士団』、彼等の事も今いち信用できませんでしたし」
グラ…
壬空達を封じたキースのウェポン『捕獲円』は、城の外へと脱出する。
キース「レディーの胸の中で死にたかったぜ。炎の中で死んでも嬉しくねえ。さあ、俺の炎がどれだけ燃えるか。…試してやろうじゃねぇか!!」
キースと黒い不死鳥が『氷女人』目掛けて飛ぶ。
ギギギギギギギ
キース「行けるぜ!」
バリッ、ドゴォォォ…ン

キースのウェポンが開き、壬空と刹那を解放する。
壬空「行ってみよう。十番街へ!!」

―10番街―
コオォォオオオ…
キースの『フェニックスシェーパー』により、デッドストラクチャー…、いや、10番街に巨大な穴ができていた。
恐らく、タナトスも、氷女人も、組織全体も、そしてキースさえ、死んでしまった。それ程酷い有様であった。
壬空「…、死四駒、と、デッドストラクチャーはもう消えたのかな?」
刹那「…間違いないですね。…そして、何かの衝動により…、『空への螺旋階段』の周りに禍々しく張られていたバリアーも消えています。と、なると…。もう私が『リライブクロス』に居る理由も無くなりますね…」
壬空「…、あの人はどうしたんだろう。白黒の人」
刹那「…恐らく……」
『キース、奴は死んだよ』
壬空「きゃ…!頭の中に言葉が浮かんでくる…!!」
刹那「これは、テレパシー?」
『我が名はタナトス。不死者だ。貴様等を守ったキースは、死んだ。ついでに氷女人もな』
壬空「や、やめてぇーッ!頭の中に入ってこないで!!」
「誰が、死んだって?」
壬空「し、白黒の人!」
キース「タナトス。てめえの核は今俺の手中にある」
『なんだと…!?』
キース「知ってる。これを破壊すればてめえは消える。ハートみたいなモンさ」
『や、やめろ!そ、そうだ。貴様にも「永遠の命」、くれてやるぞ?』
キース「うそっぱちじゃねぇか。こんなビー玉みたいな核一つでてめえの命が無くなるんだぜ。…じゃあな」
ボウッ
キース「…と。死四駒消滅って所か」
刹那「貴方…、生きていたのですか」
キース「まあな、大体女の為に味方裏切って死ぬなんていくら俺でも馬鹿過ぎるだろ?だから、生きたのさ。…ま、それより聞けよ」
刹那「はい」
キース「俺の名は、キースだ」
ステーン
壬空「そ、それだけぇ~??」
キース「ま、それは置いといてだな。今俺が『特殊バリアーを張った張本人』を殺した事によって、『空への螺旋階段』が解禁された。恐らく『紅闘士団』も『リライブクロス』も『世界政府』も動き出している。それ程俺達は太陽や月、海、空等というブラッツの『外の世界』を見ていないからな」
刹那「既に紅闘士団は東の大陸へ向かった筈です。リライブクロスも、古代都市という腑抜けた情報に夢中ですし」
キース「…まあ、そんなに早く動かねえ方がいいよ。何となく、そんな感じがするのさ」

―空への螺旋階段―
グリニー「サナト大統領。『空』に到達した時は、次は何をされる予定なのですか?」
サナト「う~ん、そうだねぇ♪とりあえず、東の大陸とやらをじっくり観察しようじゃないか…」
グリニー「あわよくば」
サナト「クスッ、グリニー、君も焦らしが上手いねえ…♪」
グリニー「サナト大統領程ではありませぬ」
サナト「退け退け!民衆どもよ!!我の先を進む人間等要らぬ!やってしまえ!グリニー!!」
グリニー「ハッ。『スパイダーアーム』」
機械のような触手が何本か唸り、前方の人間達を弾き飛ばしてゆく。
サナト「さすが。あっぱれだね」
グリニー「勿体無いお言葉です」
ヴォォ…ン
サナト「!何だあれは!!」
『ヴィジョン』が現れ、次第に濃くなってゆく。そして、螺旋階段の中央。サナトの目の前に現れた男は――
インフォスフィア「ようこそ、人間ども。私の名は『インフォスフィア』。バールを司る神。時に人間。『空』に何の用かな?」
サナト「何者かね?君は」
インフォスフィア「忌み嫌われるブラッツ、そしてバールの創造主」
サナト「ふん、…どうだね?初めて『西の人間』を見た感想は?私は人間共の統領である」
インフォスフィア「ふむ。まず、理由を聞きたい。何故、東へ飛ぶ?」
サナト「ただ単に、空を拝みたいからさ」
インフォスフィア「ふむ。では、どのようにこの『螺旋階段』に入った?」
サナト「ああー、喋るの面倒臭くなってきた。グリニー。変わりに話してやりたまえ」
グリニー「ハッ。既にこの螺旋階段を遮るバリアーは消えています。我々は、黒き大気『ブラッツ』の下で日の光を見る事の無いまま過ごして来ました。古文によると、このブラッツの外には素晴らしい世界がある、と記されています。我々は、それを見てみたいのです」
インフォスフィア「その古文は間違いだろう。東の大陸を除けば、まあまあな見晴らしだろうが」
グリニー「その『まあまあな』暮らしが私達にはできていません。是非、通して頂きたい」
インフォスフィア「フン、自分達さえ良ければそれでいいのかね?ブラッツを消してもらおう、とは考えない訳かな?」
グリニー「サナト大統領」
サナト「ふん、弱肉強食だよこの世界は。強い者が光を浴び、弱き者は永遠とブラッツの下を這いずり廻る。そうだろう?」
インフォスフィア「では、醜き大統領とやら。貴様が本当に強者かどうか試してやろう。『シャドゥ・マーシュ』」
影の底無し沼がサナトとグリニーを襲う。
サナト「…ブハハ!私とて馬鹿ではない」
インフォスフィア「ほう、そのウェポンは…」
サナト「『業傘反(ギョウサンハン)』。私には『武力』等というものは効かん。むしろ跳ね返すぞ!!ブハハハハ!!」
インフォスフィア「良かろう。ならば実際に東に飛び、己の愚かさを確認するが良い」
サナト「時に、神。私達世界政府には東への移動手段が無い。どうすれば良い?」
インフォスフィア「転送してやろう」
ドシュン
インフォスフィア「…フン、バリアが破れたという事は…死んでしまったか。氷女人」







壬空「キース君は今からどこに行くの?」
キース「部下の供養さ」
壬空「そっか……。良かったら一緒に向かっていいかな?」
キース「…いいぜ」
刹那「花を差し上げる事はできます。デッドストラクチャーの空洞へ向かいましょう」

11番街 ―街の外―
プルールルール♪
リリ「壬空さんと連絡が取れたよ!」
楽兎「ったく、デッドストラクチャーにはいなかったはずだぜ」
リリ「私達が気絶してる間に移動してたんだって」
貞弘「柏木さんはどうした?」
リリ「生きてるって」
貞弘「お~、さすが柏木さんだな!」
楽兎「柏木ならそりゃ無事だろ。あいつは無茶苦茶強いし」
不知火「……」
貞弘「フン、デッドストラクチャーは10番街だがここは11番街だしよ、10番街に移動するか?」
リリ「壬空さんが、暫く旅に出るから合流はいいって。それと、タナトスの部下を沢山捕らえて警察に付き出したから、麗那さんの手術代を電子マネーで送ったって」
楽兎「ほ、本当かよ……!」
リリ「暫く遊んで暮らせるだけのお金はあるって」
楽兎「よし……4番街に向かって麗那を病院に搬送するぞ」
不知火「リリさん」
リリ「?」
不知火「楽兎君には、もう少し積極的にならないと、麗那さんに奪われてしまいますよ」
リリ「私と楽兎って恋愛感情ないんだ。不知火君も世話ばっかりじゃなくって女の子に積極的にならないと彼女ができないよ♪」
煙が出る様に顔を赤らめる不知火

―デッドストラクチャー空洞―
壬空「大分歩いたわね」
キース「疲れたかい?」
壬空「いえいえ、まだ全然大丈夫だし!」
キース「危険はないぜ。危険があったらレディをここには連れてこねぇ」
刹那「……」
それは、敵味方もろども焼死させてしまったキースの自信と絶望でもあった
ザッ、ザッ
壬空「ふ~、疲れた」
刹那「……凄まじい『怨』を感じますね」
キース「ああ、俺達三人の武力を感じ取っても『怨』を丸出しに出来る奴なんて、怖いもの知らず以外の何者でもないね」
刹那「キース様、好戦的な様ですが」
キース「こいつはバールだ」
キースの100倍は大きいバールの牽制で門が薙ぎ倒される
キース「でかい。デッドストラクチャーに有ったバール・ライブラリの中央に飾られてたホルマリン着けのヤツか。弱い奴はバール・ラボラトリで実験台になってるし、こいつは無傷の新品だな……」
刹那「私の刀で刺せますが、深さに限界がありますね。眼球など柔らかい部位なら攻撃は与えられそうです」
キース「こいつはウチの資料館でも代表的なバールだからトータルで氷女人以上に強いと思ったほうがいいぜ」
刹那「心得ました」
キース「壬空ちゃんは危ねぇから物陰で隠れてな。『滅』を忘れんなよ?」
壬空「きゃっ!」
キースが壬空を抱えて、壬空を物陰に隠す
壬空「……キース君……」
キース「俺の黒炎で丸呑みにしたら丸焦げにできるが時間はかかるぜ」
刹那「まず致命傷を与えましょう。私が先に攻めます」
門が薙ぎ倒され目の前に巨大な空洞と空が現れた
バールの眼球付近に瞬間移動をしたかの様に現れ構える刹那
ズギャギャギャギャ
バールが眼球から黒い血を噴出させて、大きな奇声をデッドストラクチャーの空洞に犇かせる
キース「スピアシェイパーっと。2つ必要だな」
ワンテンポ置いてキースがバールの眼球に近付き、黒炎の槍を裂けた両目に投げ込む
刹那「どうやら、キース様が黒炎の槍を眼球の裂目に投入し続ければ勝ちの様ですね……」
キース「ちょろいっすわぁ」
バールから出る8つの突起から無数の眼球が開く
キース「……あら」
刹那「私が全部斬るので……」
刹那の背にテレポートするバールの突起
ドゴォ
刹那「……っハ……」
キース「くっ!これがウェポンって訳か!」
キースの背にテレポートするバールの突起
キース「避けるのは十八番なんでね!」
空中に浮き無規則に移動するキース
しかし、テレポートの位置そのものがキースの背中に追従している
キース「まじかよ、避けられねぇのか!?」
背中に黒炎の槍を構えるキース
ドゴッ
キース「がはっ!!!!」
黒炎の槍に焼かれる突起だが、突起の突きが速く、突起を防ぎきれなかったキース
物陰に隠れていた壬空が朱雀剣を上にかざす
壬空「朱雀剣『朧』!キース君と刹那を空に連れていって!」
朱雀剣から出る透明の竜が刹那とキースを捕まえ、空に上昇する
壬空「私も尻尾で捉えて」
尻尾で壬空を捕まえる朱雀剣『朧』
月の塔から漏れる光を中心に、ブラッツで覆われた暗闇の空を昇る竜。
壬空「……追ってこないわね」
無垢な顔で静かに気絶しているキースと刹那
壬空「この二人仲がいいわぁ。ねぇ朱雀剣『朧』、どこに行く?」

7番街―ファルカッセル城
グラン「これが桃源郷へ繋がる祭壇か」
マッドレイ「その様ですな。……しかし、何故刹那様は、この旅路を拒否なされたのか……」
グラン「他の勢力と協力する話があったのだそうだ。それに、私はこの旅路を刹那様には話していない」
マッドレイ「……何故その用な行為をなされたのですか?」
グラン「桃源郷が本当に在るのかが怪しいからだ。この様な高熱の地に出向き、もしも紅闘士団の話が嘘であれば、我々の旅路は無駄足になるだろう」
マッドレイ「もし、紅闘士団の言う事が本当で、桃源郷に移動した場合は、グラン様は魔法を習得なされるつもりだったのですか?」
グラン「副作用があるとしても、私が習得するつもりだ」
マッドレイ「……もし一人しか継承できないという条件があったとしてもですか?」
グラン「No.3である君に継承させても何ら困難はないだろうが……」
マッドレイ「……なるほど。しかし、いくら毒味の旅路でも、刹那様が居なければ、いざという場合に対応できないのでは……」
グラン「強大な敵も含めた旅路だ。私達が倒されれば、刹那様が危険を察知する」
マッドレイ「その様な行動を、刹那様が聞いて許すとは思えません」
グラン「……臆したかね。マッドレイ」
マッドレイ「いえ。……私めも是非ご一緒させて頂きます」
グラン様「オー・ディ・リライブクロス(全てはリライブ・クロスのために)」
マッドレイ「宝珠を祭壇に嵌め込みます」
2メートル程の黒い炎で燃える悪魔の様に笑った顔の黒きヴィジョンが祭壇から現れる
グラン「あ……あ……この方は……」
マッドレイ「知っているのですか!?」
グラン「幼い時…最重要文献……暗黒文献で見た……『時の管理者』……」
マッドレイが真っ青な顔でグランに聞く
マッドレイ「時の管理者とは何ですか!」
グラン「この方は……タイムスリップという概念をある時代に作り出した神……文献によれば……ある時リーイヴュロススという団体が闇に覆われ……『時』を司り始めると記してある……」
マッドレイ「……うわあああああああああああ!!!!!」
インフォスフィア「オマエタチニハコレカラバールトシテイキテイタダク」
インフォスフィアがリライブクロスの全員を一瞬で飲み込んでしまった

4番街―病院―
麗那「………楽兎」
楽兎「麗那!麗那!ずっと看病してたぜ!」
麗那「私も………頭の中でずっと楽兎の事を考えてた」
楽兎「俺もだよ!あれから何年経ったと思ってるんだよ?なぁ……!」
麗那「あなたは……楽兎の恋人の方?」
リリ「えっ?」
麗那「匂いで分かります……」
リリ「そ、そういうものなのかな……全くわからないけど……とにかく、私は楽兎の彼女じゃないですよ」
麗那「貴女も私の看病をしてくれてたから……。次第に楽兎と似た匂いになっていった……」
楽兎「おいおい冗談はまだ早いぜ麗那。ただ男らしい臭いがするってだけだろ?」
リリ「私男らしくないしー」
麗那「本当に、楽兎と恋人じゃないの?」
リリ「はい」
麗那「じゃあ、私、彼女?」
楽兎「そうだろ?」
麗那「私の事をずっと彼女だと思ってくれてる……嬉しい……」
楽兎「俺には麗那以外考えられねえのさ」
麗那「……今日は、泊まっていくの?」
楽兎「今日は?はっ、ずっと一緒だっただろ?これからもずっと一緒にいんだよ、俺達」







4番街 00:00 ―病棟内―
全ての電灯に強い電気が流れ、そして光が消えた
看護師「電気が全て消えた、一体どうなっている?」
医者「これでは次から来る患者の治療が……」
看護婦「非常用電灯も消灯し暗闇で何も見えません」
医者「とりあえず看護師一人が四つの病室に付くんだ。そうして患者を誘導しろ」

楽兎は窓から外を眺めていた
楽兎「遠い空で光が飛んでる様な気がしたが、気のせいか」
リリ「夢がある話だけど、ブラッツの中じゃ架空の存在なんてありえないよ」
楽兎「目に見えたから架空の存在じゃないけどな」
リリ「私ね、昔は幽霊を信じていたんだ。暗い所には幽霊が出ると思ってた」
楽兎「お前らしくないな」
リリ「うるさい!で、光無しでは外に出るのが怖かったんだよ。そしたら、柏木さんに、幽霊なんか居ないぞ、って言われたんだ」
楽兎「それは良かったな」
リリ「……それで、どうしてって聞いたら、」
楽兎「ああ」
リリ「幽霊になってもブラッツの中に留まってる奴なんている訳ないだろ、ガハハ!って言われたんだ」
楽兎「そりゃそうだな」
リリ「だから、安心して外に出ろって。それで、幽霊なんて居ないような気がしたんだ」
楽兎「……」
リリ「……でもね、たまに死んだ蘭花さんの声が聞こえたり姿を見たりすることがあるんだ」
楽兎「……俺もあるな」
リリ「たまに名前を呼ばれたりするけど、振り返っても亡くなった蘭花さんはいない」
リリ「たまに姿を見たりするけど、探しても蘭花さんはいない」
楽兎「蘭花さんをやりやがって……タナトス……!」
リリ「……それで、こうやって見えたり聞こえたりする姿は、蘭花さんの魂だと思うんだ」
楽兎「蘭花さんはブラッツの中には居ねえ」
リリ「……」
楽兎「信じていいぜ。蘭花さんこそは、男の中の男だ。俺達の事に未練なんてねえよ」
リリ「……あっそ」
楽兎「嘘じゃねえぞ」
リリ「「ところで、光を見つめる楽兎の事を見ていて、蘭花さんに心配されないように強くならなきゃ、と思ったよ」
楽兎「そうか。お前は弱いからな」
リリ「戦力的にお互い様~~」
楽兎「なんだぁ!?俺はお前よりも早く最強になんだよ!」
パリンパリン
ガラスのドアに大きな電流が通り粉々に割れる
貞弘「何事!」
リリ「ドアが割れた!!」
不知火「これは……窓から見える街の明かり以外は一切に暗闇の様ですが」
麗那「空気が緊迫してるわ……」
廊下で強くしびれる看護師の大きな悲鳴がする
楽兎「麗那、心配しなくていいぜ。俺達が通ってきた問題は数知れずだからな」
麗那「今までより緊迫してるけど、私も、大丈夫だと信じられる」
リリ「ヴァルキリー・ステイン!!」
リリの両腕から強い光が溢れる
貞弘「お前はそういう工夫もできたのか、褒めてやろう」
リリ「いいよ、褒めなくて」
不知火「視覚に困らなくなったな……皆、僕についてきてくれ」
貞弘「さて、逃げるのも手だ。現象が不明だからな」
麗那「上にいるって感覚で分かります」
楽兎「麗那、それって武力の『鈴』なのか……?」
麗那「『鈴』……?それは分からないけど……」
貞弘「……はっ!俺より『鈴』を使いこなしてやがる!!将来有望だな!」
楽兎「嫉妬か?」
麗那「感覚が途絶えた生活が続いたせいかなと」
不知火「何階にいるか分かりますか?」
麗那「最上階です」
不知火「凄いですね、参りましょう」
リリ「麗那ちゃんに先を越される日は早いかなぁ~~」
楽兎「力関連ではお前には敵わねぇから」
リリ「いやいや、本当に力は弱いからあたし」
貞弘「この電流は、割れた電灯や非常用電灯、しかもエレベーターの液晶画面からも流れてるのか。かなり強い電圧だな」
楽兎「建物を全て使ってるって事か」
貞弘「……」
不知火「相当な強敵ですね……。階段に着きました。走りながら戦略を練りましょう」
階段を駆け上る楽兎達
不知火「『縄張り』で楽兎と僕の刀に毒を張ってくれませんか、貞弘」
貞弘「分かった」
不知火「あと死斑刀の『縄張り』は今回使わない様に、毒が患者に回ると弱ります」
楽兎「陣形はどうする?」
不知火「空間が狭いのでペインプリズンで攻めましょう」
貞弘「リリは、そのままヴァルキリーステインで後衛から明かりを灯しててくれ」
リリ「分かったよ」
貞弘「それで、俺達が危なくなったらヴァルキリーステインを出し切って麗那と一緒に逃げろ」
リリ「いいよ。但し貞弘やみんなも連れて帰るね」
麗那「みんなに続けて頂いた命です。みんなのために命を使わせてください」
貞弘「……馬鹿野郎」
楽兎「ま、麗那だけは頼む、リリ。麗那を転送した後にもう一度こっちに戻ってもいい訳だしな」
リリ「任せなっさーい」
不知火「最上階に着きます。……皆んな隠れて」
貞弘「麗那ちゃん、相手はこの階のどこに居る?」
麗那「諦観の嘆きが犇く部屋の前に居ます……怖い……」
不知火「諦観の嘆き……?」
麗那「マップ上で言うと1階で私達が入院していた部屋と同じ位置にあります」
楽兎「1階と8階は同じ構造で、俺達の居た部屋が8階では諦観の嘆きが犇く部屋になってる訳か」
貞弘「移動するぞ」
リリ「麗那ちゃん、疲れてない?」
麗那「……平気、です」
貞弘「なんかこの階はおかしいな」
不知火「重体、重症で入院が長引くほど上の階に移送されるシステムですからね、人の気配がしないという事かと」
楽兎「人の気配がしない、か」
貞弘「ところでお前ら気が付いてるか?さっきから奴の電流が紙一重で俺達に当たらねぇ。これは俺達を倒す気がねぇって事だ」
不知火「気付いてましたが、それなら好都合でしょう」
貞弘「奴の電流が倒す気で向かってきたら防ぐ術は無い……それ位の実力差がある相手だ」
リリ「それだからヴァルキリーステインも使わなかったし、逃げられなかったんでしょ?」
楽兎「どうした、まさか怖気づいたか?」
貞弘「確認をするためだ」
麗那「私達……死ぬの?」
リリ「麗那は私が助けるよ~~」
貞弘「……着くぞ。俺から攻める」
堅く閉ざされた扉の前に白髪でピンクのマントを羽織った上品な服装の女の子が立っている
貞弘はジグザグに廊下や壁や天井を伝い、彼女との距離を狭める
貞弘「死斑刀……『毒化物』!!」
貞弘は刀から毒物質で構成された化物を召喚しようとするが、電圧で刀が落とされる
貞弘「ぐおおおお……!!!!!」
倒れる貞弘に続き楽兎達の服や刀を囲む様に電気が流れる
リリ「サダ!!」
エクスアイ「倒してません。貴方達に質問があります」
リリ「何……?答えたらサダを離して」
エクスアイ「タナトスのコアはどうしたんですか?」
リリ「私達はそこまで深入りしてない」
エクスアイ「そう。貴方達がデッドストラクチャーを崩壊させたという話を聞いたんだけれど、タナトスも消失したしね」
リリ「この電流を解いて!!」
エクスアイ「もう一度言うけど、タナトスのコアには価値があるの。というのも正体不明の立場から99999999999999999999カロの値段で取引なされています」
不知火「………なんだその額は………!世界政府の資金以上じゃないか……」
リリ「知らない!だから解いて!!」
エクスアイ「タナトスが消失したという事はタナトスのコアが破壊されたという事ですから、デッドストラクチャーを崩壊させた貴方達が知ってると考えた方が必然でしょう」
リリ「……」
エクスアイ「貴方達の他に仲間がいるのかしら?」
リリ「知らない……」
エクスアイ「……どうやらいらっしゃる様で」
リリ「知らない!!」
エクスアイ「ご安心を。デッドストラクチャーに文字通り風穴を開けられる程の能力者には敬意を示しますので」
不知火「後ろの部屋は何だ?凄まじい『怨』と『見』を感じるが」
エクスアイ「なんて事はないです。当病院で運用し尽くされた患者が最後に行き着く部屋。当然最も重症、重体な患者が運用されます」
不知火「……貴様の武器ではないのか?」
エクスアイ「この部屋に入れられた患者は一ヶ月後に部屋の床を落とされ焼却されます。それにしても、この様な煉獄に立たされた患者の武力が高いとは、なかなか興味深いですが」
楽兎「……お前、何者だ?」
エクスアイ「さあ……」
エクスアイがクスクスと冷笑する
リリ「タナトスのコアなんて知らない。だからサダを離して」
楽兎「こいつは自分の有利な方に状況を進めようとしてるのさ。……覚悟しな」





鋭い目で「逃げろ」とリリにつぶやき、瞬間的にエクスアイの方に距離を詰める楽兎
エクスアイ「学習しない人ね」
楽兎の剣に電流を帯びさせるエクスアイ
楽兎「どうした!背水の陣だぜ!」
「なっ……」とエクスアイが言うと、電光を背にして影に覆われた楽兎がニヤリと笑う
エクスアイ「(電圧が効かない……!?このウェポン、まさか全てのウェポンを超えるスーパーウェポン――)」
エクスアイが電界で盾を作る
ギィィィィ…………ン!!!!
楽兎「こんなもんか。大口叩きやがって」
エクスアイ「くっ……」
リリ「楽兎!行けるよ!」
楽兎「……そうかも知れないけど逃げろよ……」
エクスアイ「(スーパーウェポンは選ばれない者が持つとスーパーウェポンの力で命を消されるはず……)」
楽兎「悪いけど女との力比べで負ける訳にはいかねえ。……命は取らないでおいてやるよ」
エクスアイ「(しかしこの男は弱いけれどこの男なりにはスーパーウェポンを使いこなしている……)」
不知火「……飛針刀……」
エクスアイ「ごめんね」
一瞬で感電する麗那と不知火、リリ
楽兎「麗那!!!!リリ!!!!不知火!!!!」
盾で楽兎のウェポン、氷王剣を弾くエクスアイ
エクスアイ「彼らは死んだけど電界のパーツとして使わせてもらいます」
楽兎「な……に……?」
楽兎の髪が水色に変化し、脚のつま先から身体が宙に浮く。
冷気と氷のオーラに覆われ、眼球が黄緑となり瞳は水色になる――
エクスアイ「貴方が何時までも次の一手を刺してこないから、ね」
楽兎「消してやる……」
エクスアイ「(思った通り……武力が何らかの力でマクシマムを超えると対応する形でスーパーウェポンの限界も超え、逆に武力がウェポンに反応し変異を起こす……普通のウェポンでは武力のマクシマムを超える値には反応しないからありえないけど……)」
楽兎がエクスアイに氷王剣で斬り掛かる
エクスアイ「(速い!)」
エクスアイが咄嗟に電界の盾を作るも、盾もろども左肩を真っ二つにされる
エクスアイ「痛……っ!」
エクスアイは左肩から吹き出る大量の血を右手で押さえる
楽兎「どうした……!逃げようとすれば逃げれたはずだぜ……!」
エクスアイはニンマリと笑いながらも大きな目で楽兎を睨む
楽兎「お前がその電気で対抗しないなら、ジワジワと生気を削ってゆくまでだ――」
エクスアイ「じゃあ、これはどうかな」
電界の揺らぎと共に消えるエクスアイ
楽兎「逃がさねぇ!!」
楽兎が空中に浮きながら冷気のオーラを拡大する
エクスアイ『クスクス……病室の中には冷気を通さないだなんて、詰めが甘いよ』と、どこかからエクスアイの声が聞こえる
楽兎「どのみち病室の中にテレポートしていたら患者の声で分かる」
エクスアイ『そう……』
楽兎「血液の落ちる音が一階から聴こえる。ついでに鈴も鳴ってる。逃げねぇなら次は右肩だぜ」
エクスアイ『データを喋り過ぎだから、貴方』
楽兎が廊下の窓を冷気のオーラで粉々にし、外に出ると一階に高速で飛ぶ
そうして一階の廊下の窓を冷気のオーラで割り、一階に入る
廊下の最奥に入ってくるエクスアイの姿が見える
エクスアイ「ところで、さっきの声はどこから聴こえてたか知ってる?」
楽兎「遅いんだよ。お前、動きが鈍くなってる様だな。毒のせいか」
一瞬でエクスアイとの距離を詰める楽兎
エクスアイ『それは電界でできた残像。貴方に見せたい者があるから、最上階に来てください』
楽兎「舐めやがって……!!」
エクスアイ『貴方、意外と弱いけど、自分の理想を超えるんじゃなくって本当に強い人を超えた方がいいよ』
楽兎が最上階に移動する
リリ、不知火、麗那に電気を通し、回復させるエクスアイの姿があった
不知火「貴様……峰打ちのつもりか!!」
リリ「麗那は……全く丸焦げになってないね。私も見た所は……」
麗那「楽兎はどうしたの?」
エクスアイ「生きてますよ。ああいう姿で」
楽兎のつま先が床に着き、髪の色が黒色に戻る
楽兎「お前達……無事だったのか……」
リリ「あれ……今、楽兎が宙に浮いてたような……」
エクスアイ「楽兎くん、ちょっとこっちにきてくれる?いいものを見せてあげるよ」
楽兎「……仕方ねぇな」
リリ「あ~れ~?なんだか仲良さそう。和解したの?私にも紹介してよ」
不知火「それにしては左肩が無くなってますが……」
麗那「まだガールフレンドレベル……ですか?楽兎とリリさんみたいな……」

エクスアイ「最初に会った時の扉の向こうです。どうぞ」
楽兎「叫び声の犇きがやばいな……」
エクスアイ「どうかその感性を忘れないでいてください。危ないものは危ないんです」
楽兎「開かないぞ」
エクスアイ「離れて。強い電気を通さないと開かないの」
電圧のおかげで重く開く扉
目の前に牢屋が連なる――
楽兎「ここが医療施設なのか?これじゃ反対に調子が悪くなる――」
エクスアイ「患者にとっては一つの人生の終わる場所だったんですよ」
楽兎「ふーん。まぁ、死んだ方が楽そうな奴しかいねぇな」
エクスアイ「当病院自体が重症患者の掃き溜めですからね。その止むなき処理場という訳です」
楽兎「段々冷気が強くなってきたぞ」
エクスアイ「この先に私達が育ててきた少女がいるの」
楽兎「私達?」
エクスアイ「ここで死ぬはずだった人達と私」
楽兎「お前まさか……こんな所に住んで……」
エクスアイ「可哀想だった。本人に罪無しなのに、酷い目に合いそれでも生きてきたのに、最後には突然床を落とされて消される運命なんて、有り得ないから」
楽兎「だからって付き合ってやる必要はねぇだろ」
エクスアイ「鈍い。この部屋は私が閉じたの。それで、呆気無く患者処理をシステムに組み込めなくなった。何故か?……それは、ブラッツドーム自体が世界政府の監視下にあるからよ」
楽兎「世界政府ってそんなに黒い集団なのかよ?人伝いの噂だと、世界政府としての仕事はサナトが大統領になってから抜きん出て優秀って言うぜ」
エクスアイ「世界政府は大昔から闇深い存在なの。尤も、サナトが大統領になってからは随分闇が露わになったけど、仕事としては優秀だよね」
楽兎「チッ、どいつもこいつも」
エクスアイ「あの檻の向こうだよ。どうぞ」
赤子の頭部が透明の枠から垣間見える、赤子の身長より倍程の堅牢な装置が宙を浮かび、ローブを羽織った人間達がその周りを囲んでいる
楽兎「この赤子の髪……さっきお前を倒そうとしてた時の俺の髪に似てるな。水色で、凍ってる……」
エクスアイ「どういう訳か……だけど」
楽兎「俺のクローンって訳じゃないよな」
エクスアイ「女の子よ」
楽兎「じゃ、違うな」
エクスアイ「……私、あの少女を拾ったの。但し、凄いポテンシャルの武力を秘めてたけどね」
楽兎「バールって事か?」
エクスアイ「純粋な人間だよ。しかし、武力としては人間の範疇を悠に上回ってる。だから、私はこの少女を育てる事にした。神を消す存在としてね」
楽兎「この世界のブラッツとバールを作った奴か」
エクスアイ「しかし、貴方もあの子に似た性質の力を持っていた。貴方も神を倒せる……そう思った」
そう言い無くなった左肩の辺りを掴むエクスアイ
楽兎「あいつに似た性質の力……」
エクスアイ「スーパーウェポン、氷王剣と性質が同じなのよ。あの子も、貴方も」
楽兎「……チッ!俺とウェポンが同質だと?まるで俺が人間じゃねえみたいに言うんじゃねぇよ」
エクスアイ「でも、同じなのよ」
楽兎「俺は帰るぜ。チッ、俺とウェポンを同質扱いしやがって……!」
エクスアイ「未来、もしもあの少女と共に戦う事になったら、あの少女を助けてあげてほしい」
楽兎「さっき散々俺の事を弱いって言ってたじゃねぇか。今更俺の強さに平伏したのかよ?」
エクスアイ「貴方は強い。でも色々残念なんだ」
楽兎「うるせーんだよ。それよりあの赤子を外気に触れさせてやれよ。復讐されるぞ」
エクスアイ「ああ見えるけど色んな所に連れてってるよ」
リリ「ね~楽兎紹介してよ。新たな彼女?」
楽兎「違うって」
不知火「最後に問いたい。どうやら貞弘の掛けた毒が回っている様だな」
エクスアイ「何か?」
不知火「貴様、何者だ?あの戦闘能力で並の人間とは言わせない――」
エクスアイが不知火の前を通り過ぎる時に上目使いでニタリと笑う
エクスアイ「ルナティック・アイズの一員とだけ言っておきましょう」
楽兎「お前のその絵本に出てくるような月みたいなピンクの瞳と関係があるのか?」
エクスアイ「それだけは団員のお揃いだよ……それでは」
楽兎「おい!!左肩の応急処置してやるから消えるんじゃねぇ!!倒れそうな分際で!」
エクスアイ「……あの少女もお願い」
トサッ
楽兎が両腕でエクスアイを支える
楽兎「よっ、と。しかし気絶した顔が似合わねぇ奴だな」
リリ「あのさぁ、お姫様だっこは止めた方がいいんじゃ……」
楽兎「そうか?軽いぜ」
リリ「いや……あの……そういう意味じゃなくて……」
麗那「……ゴホ」
リリが麗那の方を驚きながら見て真っ青になった。
真っ先にリリに抱えられるも、地面が朱色に染まってゆく。
リリ「大丈夫!?麗那ちゃん!!」
麗那「逃げて……。来る……!武力が……四つ……!」
リリ「麗那ちゃん……限界を超えてたのに無理してたんだね……ごめんね……」
廊下の向こうに現れる四つの影――廊下の電灯がエクスアイから離れた電流を独りでに循環し、不安定に付いたり消えたりし光る。
八つに近い狂気の月が楽兎達の方を向く。
少女と見える怜悧な影が、気絶したエクスアイに強くウェポンを向ける。
???「エクスアイの腕を改良したまえ……、『ダークヒーラー』!」
少し背の高い金髪でベージュのスーツを着た高貴な男が、横に長い四角の眼鏡に指を添えて呟く。
????「待ちなさい……ユイリ……。エクスアイは敵だ」
完全に作法の整った男からこう話しかけられて、ウェポンのエネルギーでなびいていた少女の黒髪と、深緑の服に備わる鋭利な大きめのセンターベントが乱れながらも落ち着く。
そうして、少女はバランスを失い前に少しよろめきながら、この堅牢ながら上品に作法の整った男に訊く。
ユイリ「何で止めるの!?グノルク!」
グノルク「……私のウェポンから訊いた」
ユイリ「でも、エクスアイの腕が!!」
グノルク「それより解くべきは……、エクスアイ程の実力者が……、腕を取られたという事だ」
グノルク「……イルシオン。待ちたまえ……。全力で行こうじゃないか……」
切断され襟で囲まれた首の上に縦長の正八面体を象る様な物体が浮かんだ、青色の衣に包まれ逆三角形の体格をした長身の男は答えた。
イルシオン「周到の間違いではないかね?グノルク◆ところで、君の相棒であるマグスディクが何か言いたげの様だが◆」
マグスディク「エクスアイは裏切る者ではない」
マグスディクは自らが着ている紫のオーブを払いながら、尖った金髪の間から鋭利な目を覗かせてグノルクを睨む。
楽兎「お前らがルナティック・アイズか!!」
麗那「お願い……皆んな、逃げて……武力が甚大過ぎる……の……」

3番街 ―ブラッツドーム―
闇の空にたゆたう壬空達
壬空「さて、あの辺りの休息場でも使おうかな」
キース「13番街にしないか?13番街には俺達が使っていた特別最上級の城があるんだけど」
壬空「いいけど、そこって寒くない?13番街という時点で休息のための環境じゃないはずだけど」
キース「城の中は整備が整ってるし、城までは俺の白炎で冷気を遮ってやるさ」
壬空「じゃ、お願いしようかな」
壬空達はブラッツドーム最北の地――13番街のゼノデヴァイド城に移行する
師団長「よくぞお帰りになされました、キース様」
キース「ちょっとお手並み拝見させてくれないか」
師団長「な、何を……」
キースの非常に荒れる黒炎で師団長が塵になる
塵は緩やかに空を舞い、兵士達の声で城内はどよめいた
刹那「……ここは……ゼノデヴァイド城……」
壬空「キース君……?」
天を仰ぎケタケタ笑っているキースの淀んだ目と壬空の目が合い、壬空は戦闘態勢に入る
キース「お前の惚けた顔には内心ウケたよ、壬空」
刹那「……どうやら精神構造が既に別人の様ですね」
壬空「……この喋り方は……」
キース「鈍いな。俺は死四駒の一人、タナトスだ。コアがキースに破壊されても生が持続した事は計算外だった」
壬空の神経が昂ぶるが、即座に噛みしめて抑える
刹那「空洞のバール戦前で何がかおかしいと思っていました。あなたの様な攻撃性を知覚したので」
キース「コアが塵になったところで、それぞれの塵にコアの単位である組成が残れば俺の生は持続されると知った」
壬空「朱雀剣……『リヴァース・ウロボロス』」
キースの身体が自らの黒炎で燃えてゆく
キース「キースの掌にコアの組成が残っていたので俺の意識は奴の掌を木の根として体の内側から蝕んできた」
刹那「天啓剣……『明』」
キースが一抹の黒炎を残して何処かへ瞬間移動する
キース「お前達、白炎は好きか?俺は必要がないと思う。何故なら黒炎だけで全てを燃やせるからに他ならない」
壬空「余裕ぶっちゃっていいのかなぁ?この技は超強いのよ?」
キース「何故キースが白炎を使ったのかというと、それは他者を助けるためだった。変幻自在さ故に小回りが効く様だな」
黒炎が朱雀剣の龍を飲み込む様に膨張し、次第に手、足、羽と象ってゆく。そして、幾多の瞬間移動でヴィジョンを見せるかの様に動く
タナトス「全テヲ焼キ尽クストイウ言葉ハ偽リデハナイ」
刹那「……そんな……これではまるで…………神…………!」







タナトス「神?生憎、貴様等ガ神ト崇メテキタモノハ得テシテ悪魔ダッタナ」
刹那が左手で天啓剣を天に突く
天から濃い紫の線が振りタナトスを覆い潰す
目の前が濃い紫で覆い尽くされるが、ゆらりとタナトスの陰が線の柱から現れる
タナトス「ドウシタ?コンナ悪魔ノ威ヲ借リタ様ナ物質で俺ニ勝テルト思ッタカ?」
壬空は地を蹴りタナトスに向かい飛ぶ
刹那「壬空!!!」
タナトス「オ前ノリヴァースウロボロストカイウ技ッテ、モウ消滅シタノカ。コレデハ冗談ダナ」
壬空「キース君!!聴こえてる?!」
タナトス「何ヲ……」
涙が空に浮いているが、状況とは反対に張りのある声が城内に響き渡る
壬空「俯瞰だけじゃなくって、注視も必要なのよ!!聞こえてたらいい!!!!!」
タナトスが壬空を掴み手の平から黒炎を大きく放出する
壬空は涙もろども丸焦げになるとたちまち塵になる
タナトス「コレデハ余リニモ人間ハ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ!!!!!!!!!ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

13番街 同刻
ルンド「……凄ぇでかい武力が遠くにあるな」
ビナーレ「どうせバールっスよ。人間の規格じゃありませんせん」
ルンド「(否……、バールにしてもあまりにもでかい……)」
ビナーレ「それより、この宝珠はどこに嵌め込むのでしょう?」
ルンド「地下2000階にある殿堂の中心さ。世界政府の黒色指定区画、月の塔の真下だな」
ビナーレ「超くわしーっスね」
ルンド「まぁ物知りなんでな……着くぞ」
エレベーターが開く
ビナーレ「!この超巨大コンピューター群とこれらに極太ケーブルで繋がれた人達は??」
ルンド「歴代の大統領達が位相空間技術を使い収集している歴史上の大天才達だな。機械の部分にして世界の中枢として働かせてるって事だ」
ビナーレ「大天才達!私も入れてくださいよ。極太ケーブルや桃源郷の宝珠というぶっといでっかいので」
ルンド「この光景を見て卑猥ギャグを飛ばせるお前は何もせんでもその内どっかに飛ばされるから気にすんな」
ビナーレ「収まりが付かなくなったんスよね。宝珠を嵌め込む辺りから」
ルンド「そうだな。……さて、祭壇に着いたぜ」
ビナーレ「うおっ、眩しっ」
ルンド「最早何色か分からん様な光り方だが目には影響ねぇぜ」
ビナーレ「それにでかいっ。この様な非常に神秘的な装置には宝珠をスリーポイントシュートするしかありません」
シュパッ
ビナーレ「やれやれ。痛み無くずぽっと嵌まりました。って、魔法陣に囲まれる!!助けて!」
ルンド「魔法陣に触れた対象も桃源郷に転移される様だな……宝珠が割れたらゲンコツだった」
ビナーレ「どこにゲンコツするんですかぁ?アホ兄」
ルンド「頭だ」
ビナーレ「頭?」
ルンド「……お前は頭に加えて精神を治療しな」
ビナーレ「頭と精神を治療って、最低じゃないっスか」
ルンド「着いたぞ」
ビナーレ「わぁっ、可愛い世界」
ルンド「なんというか、ケレン味溢れる街だな」
ビナーレ「それを言うならメルヘンっスよ」
ルンド「さすがの俺でも陽の日を浴びたのは初めてだね……」
ビナーレ「ブラッツのない世界がこんなに可愛い景色だったなんてぇ!」
ルンド「なんだか明るくて落ち着かないねぇ。可愛いかどうかは知らんが」
ビナーレ「ブラッツが無いっていう事は、ここは東の大陸かな??」
ルンド「そうなるねぇ……そこに人がいるから話を聞いてみるか」
ビナーレ「いたいけな女の子じゃないっスか。ペドですよこれは」
氷女人「?」
ルンド「……あの、魔法使いって知ってるかな?」
氷女人「私、知ってるよ」
ビナーレ「この子、氷女人じゃ……」
ルンド「どこで魔法を習えるか、知ってる?」
氷女人「私、知ってるよ。ここはアルトル大陸だよね。アルトル大陸の最北の寒地に、ゼノデヴァイドっていう魔法の城があるんだよ!」
ルンド「……そうか。ありがとな」
氷女人「ご褒美に頭撫でて!」
ルンドは「いい子だ」と言って、氷女人の髪の毛をくしゃくしゃに撫でる
ビナーレ「アホ兄~~。またセクハラみたいな事をして」
ルンド「セクハラみたいな事って、何でも該当するじゃねぇか。それより、」
ビナーレ「あの子、氷女人だったよね?」
ルンド「何でここに氷女人がいるのかって事だ。奴は死んだはずだぜ」
ビナーレ「どなたかのウェポンで蘇生&若返ったとか」
ルンド「そんなウェポンが存在したら今時需要ありまくりだな」
ビナーレ「若返れるなら私、死にますわ」
ルンド「そういう意味じゃない。……とりあえず魔鳥を呼びな。13番街に行くぞ」
ビナーレ「空間転移してないならここも13番街ですが、わっかりました」
ルンド「景色は綺羅びやかだが、お前に依る魔鳥の危なっかしい乗り心地は変わらんね……あとここは13番街とは言ってもアルトル大陸の中心、世界政府だ」
ビナーレ「アホ兄、後ろ」
ルンド「何だ?……あれは……ブラッツ……?」
ビナーレ「規模は小さいけどね。大きめの城の10倍程の大きさかと」
ルンド「……不吉な予感がするぜ。近寄らない方が吉だな」
ビナーレ「じゃ、出発進行!」
ルンド「おい、唐突に飛ばすな!」
ビナーレ「何時も通り馬鹿だなぁ、アホ兄」
ルンド「円満の笑顔で言うな」
ビナーレ「いや~~馬鹿に似合う夢ある空な事」
ルンド「(……にしても、あのブラッツ辺りから出ている武力……まるで宝珠を嵌めこむ前に察知した武力と同質……)」



十一



100000年前 ―ゼノデヴァイド城―
ビナーレ「あれ?なんだかこのお城、風貌が変わった?」
ルンド「ブラッツが晴れているし、桃源郷に移る儀式で時間軸を移動してる可能性がある」
ビナーレ「さっきの宝珠をスリーポイントシュートで嵌め込んだ時の奴?」
ルンド「そうだ。そしてテクノロジーの進展で計るに俺達は過去にいる」
ビナーレ「でも、氷女人が居たって事は100年以内だよね?バールといったって人間と寿命は変わらないもん」
ルンド「悠に1000年は超えてるねぇ。ロストテクノロジーが散見できるからだ」
ビナーレ「じゃあ、この時代じゃ氷女人は生きてないじゃん。嘘つきになった?」
ルンド「タイムスリップしてるかだな」
ビナーレ「タイムスリップ?あたし達と同じ様に?」
ルンド「別だと思うがそれなら奴は時間軸を転々としている可能性があるな」
ビナーレ「氷女人のそんなエピソードは初めて知りました」
ルンド「だから別なんだよねぇ。さて、ゼノデヴァイド城に入るぞ」

ビナーレ「目が痛くなる光景だなぁ」
ルンド「この文化差だと1000年どころの時間差じゃないな」
ヴォン
黒きヴィジョンが現れる
???「魔法を扱えぬ御二方……こちらに着いてきてください」
ルンド「お前は……金月刹那だな。灰色のフードを着ているが変わらぬ美しさの様で」
刹那「私は貴方達の事を存じません」
刹那の魔法陣でテレポートするルンド達と刹那

ゼノデヴァイド城の上空に現れるルンドとビナーレ、そして刹那
ルンド「浮いてる……?俺はもう魔法を覚えたのか?」
刹那「今から習得して頂きます」
ビナーレ「ちょちょちょちょ早足過ぎ、どっちも」
刹那「魔法を伝える事が私達の役割ですので」
ルンド「伝える?誰が発端なのか聞いていいか?」
刹那「インフォスフィア様です」
ルンド「……お前と同じ役割は誰か聞いていいか?」
ルンドはビナーレの周りにステルス素材の航空機を建てて飛ばす
刹那「リライヴクロスの全員です」
ルンド「最期に訊いていいか?」
刹那「はい」
ルンド「魔法使いって、バールなのかい?それで魔法使いを増やしているという訳か」
刹那「正しいです」
刹那が両腕を上げルンドをテレポートさせる
ビナーレ「アホ兄!」
ゼノデヴァイド城の北にある海底に沈むルンド
刹那「海は魔法使いの羊水……海から出た頃には魔法を習得しています」
上空から海とゼノデヴァイド城下町を見下ろすビナーレ
ビナーレ「アホ兄……どこに……」
海底から不吉な姿を写す超巨大のバール――
ビナーレ「あれが……アホ兄――?」
顔を蒼白にするビナーレ
刹那「……果てなく優秀な魔法使い。おめでとうございます」
ビナーレ「アホ兄が助けてって言ってるような気がする……」
刹那「さて、あと一人いらっしゃったと思いますが……」
ビナーレ「そうだ!息できないよ!ビーストコマンダー!アホ兄を上空に移して!」
ステルス素材の航空機を壊す様に上空に召喚されるルンド
ルンド「クオオオオオオオオ…………クオオオオ…………」
ビナーレ「……バールの姿なのに……言う事を聞いてくれる……?」
ルンドは超巨大ステルスバリアーと白く強い光を出す超巨大なバリアーを別々の空間に張り、ステルスバリアーの中で魔法陣を作り出す
刹那「……あの発光する超巨大バリアーは囮で何処かに超巨大ステルスバリアーを張られた様ですね……」

現代 東の大陸
ヴォォォ……オオン
東の大陸の上空に荒々しいヴィジョンと共に現れるルンド
ビナーレ「……ここは、どこの時代かな。青い空がどこまでも続いて鮮やかだ」
ビナーレ「でも、紅闘士団のシデン団長にこの恐ろしい姿を直してもらおう?」
ルンド「クオオオオオオオオ…………」
ビナーレ「……自我が無いくせに。私に本当の空を見せてる場合じゃないじゃん…………アホ兄…………」



十ニ



4番街 0:40 ―病棟最上階―
イルシオン「ハッハーッ!!◆◆まだルナティックアイズの戦力は1/3にも満たないが……◆」
グノルク「……マグスディク」
マグスディク「何かな」
グノルク「……敬意を表し、全力を出そう……」
マグスディクは遠い目をすると、彼は空中に飛び上がり、ウェポンを振るう
マグスディク「ウェポン『メタルカーバイド』、グノルク、ユイリ、イルシオンを斬り刻め」
ズチュチュチュチュチュ
先端が大きな手の形をした洋剣――メタルカーバイドから七指が拡散し、素早く弧を描く様に構えながらグノルク、ユイリ、イルシオンと自らを浅く斬り刻む
壁から対面の壁に掛けて紅の雨が降る。グノルクとユイリが大きくのけ反るが、イルシオンは格好を付けて堂々と立っている。
ユイリ「くっ……!『ダーク・ヒールレーザー』!グノルク、イルシオン、マグスディクを貫け!」
ピ、ピッ、ピッ
続いてユイリが自分の傷口にダーク・ヒールレーザーを撃つ。
傷口が黒色の物質で浸透してゆく。
各電灯に流れる電流が微量になっている最中に、紅の雨が降り注ぎ終わる。
薄い闇に佇む、紅の雨に染まった八つ程の妖しい月が楽兎達を睨む。
リリ「何なのあいつら……自分達で傷付けあってる……」
不知火「武力が上がってます……十中八九、今の行動のせいかと……リリさん、逃げましょう」
リリ「女の勘ってやつ?逃げる必要が無いと思ってるんだけど」
イルシオン「ノンノン◆立ち話ししている余裕はあるのかな?◆我が子供達よ、敵の身体から産まれ皮膚を破裂したまえ、『デビルフロムダークサークル』◆」
ブシュッ
楽兎、不知火、リリの皮膚を突き破り、小さいイルシオン達が出てくる
不知火「な……!」
リリ「…痛……!」
イルシオン「我が子供達の性能を話す必要は無いだろう◆君達と俺のいい所取りだ◆ゼロを足しても何も変化しないという事だ◆」
イルシオン「我が子供達◆彼等の足を刺し固定したまえ◆」
ブシュッ、ブシュッ
不知火「うわあああああーーーーーーーッッ!!!」
マグスディク「要らん真似をするなイルシオン」
マグスディクは空中で構え静止しながらイルシオンに話す
イルシオン「試す事も必要なのだよ、マグスディク君……◆」
マグスディク「メタルカーバイド『七指』」
マグスディクが洋剣の手から七つの指を弾き出し、洋剣と七つの指を繋げる鎖を撓らせながら楽兎、不知火、リリを突き刺す。
楽兎「ぐはっ……!」
不知火「リリ……さん」
リリ「ごめん……両腕やられた……」
ユイリ「全員倒したか……?」
グノルク「?……何故倒さない?」
マグスディク「トドメを刺す必要は無い」
グノルク「……やれやれ、……カレントリング『レガシーウェポン』、彼らを倒すためのウェポンを用意しなさい……」
グノルクの指輪から故人達のウェポンが一つずつ現れる。
グノルク「ど、れ、に、し、よ、う、か、な」
ユイリ「さっさとやれ」
グノルク「はて、やる気をなくしている……」
ユイリ「君、嫌われるでしょ」
グノルク「……帰納的推測かね」
バッ
麗那がグノルクの背後からウェポンを奪い取る。
ゾッ……
ウェポンを取られて輪郭が速く溶け浮かぶ様に昇華する。
グノルク「(……武力を完全に消している……)」
麗那がウェポンの力を開放する――
ユイリ「何やってる!!!!速く防御を固めろ!!!!」
麗那が使用したウェポンで、病院が大きく破壊される

4番街 ―病棟跡―
麗那「…………ここは……ブラッツドーム?いや、なんだか高速で動いてる様な……」
麗那のウェポン「外だ外だーーーーッ!!空が開いているぞーーーーーッ!!!!」
麗那「……何これ……私が乗ってる生き物の声みたいだけど……姿も声も大き過ぎ……」
貞弘「よう、起きたか」
麗那「貞弘!!無事だったんだっ!!」
貞弘「ハッ……みんな無事だ。気絶してるけどな」
麗那「良かった……」
貞弘「無理すんじゃねえぞ。今回は助けられたけどな」
麗那「私が……助けた?いや……確かに全員を守るように願ったけど……」
貞弘「それが、お前の実力だ」
麗那のウェポン「へひゃひゃひゃひゃーーーっ!!東の大陸にはきっと美味しいグルメがあるぞ!俺は神になるんだーーーーーッッ!!!」
貞弘「お前は黙ってろ」
バキッ
麗那のウェポン「俺は神になって国王になるんだーーーーッッッッ!!へひゃひゃひゃひゃーーーーっ!!」
麗那「……ところでこの原則的に丸くて可愛い手足が生えただけの大きい生き物、なんで高速で走ってるの?なんだか、段々『月への螺旋階段』に近付いてるんだけど……」
貞弘「さっき前に滑り込んで顔を覗いたがスケベな顔をしてたぜ。口と目しか無かったが。全体的に黄色い生き物だ」
麗那「……スケベな顔?」
貞弘「……俺の表現が稚拙なだけだが本当にその程度の顔しかしてないぜ」
麗那「『月への螺旋階段』に近付いて、どうするつもりなのかな?」
貞弘「決まってる。……東の大陸に入るんだ」
麗那は、目前に差し出された拳の裏から肘にきょとんとする
貞弘は風に吹かれながらニッと笑う
麗那「……あの……手首に巻かれたこのブレスレットは……なんだかボロボロだし、裁縫してあげたい」
貞弘「これか。これは――親父からのプレゼントだ」
麗那「今、貞弘のお父さんは――」
貞弘「死んだ。俺の責任を取ってな。母も、弟も一緒に命を絶った」
麗那「何で……」
貞弘「俺は修行のさなか、大きい乗物を扱う運搬作業で食い繋いでいた。その時に後退運転をしていると、後輪で何かが潰れる音がした。何かと思って窓から後ろを覗いてみると、赤子の頭部とズタズタになった首、胴体で、四肢は潰れていた」
麗那が目を細めるも、真摯に貞弘を見る
貞弘「それからはずっと相手の親族に詰られながらその赤子の世話を見る毎日だった。俺の家族にも毎日手紙が届いた。赤子が泣き叫ぶのと同じ頻度で、家族の表情は変形していった。そうして、親父は弟と母と共に責任を取った」
麗那「うん……」
貞弘「だが、その日にこのブレスレットが送られてきた。添えられている手紙を後日繰り返して読んでも、善意しか無い。このブレスレットを付けると、夜によく眠れたな。しかし、親父や家族が死んでも、相手が俺を詰む勢いは止まらなかった。こういう日が長く続いた」
麗那「……」
貞弘「何時の日だったか、俺は疲れ果てて懺悔所に相談しに向かった。答えは満場一致で『捨てなさい』という意見だった。」
貞弘「俺は捨てに向かおうとしたが、赤子の頭部には三角錐の紙が被せてあった。その赤子の両親に言わせてみれば、もう顔を見たくないから捨ててくれとの意見だった」
麗那「うん……うん……」
貞弘「この親はクズだと思った。んで、赤子を捨てた後にその親族を全員倒した、という訳だ」
麗那のウェポン「空だぁーーーーーーーー!!飛翔するぞーーーーーーー!!!!!!!」
ビョイン――
麗那のウェポンが楽兎達を乗せて空に向かう――
麗那「――それで、今、乗物には乗れるの?乗物を見ただけで怖くなったりはしない――?」
貞弘「――なぁに、生きてる限り、新たな問題がやってくるものさ!!」



十三



―東の大陸―
サナト「やれやれ、日差しが明るいなぁ……私は、暗闇で閉ざされた世界の方に向いているのかなぁ……」
グリニー「先方には何も見当たりませんでした」
サナト「大地以外は、ね。それにしても、文明が無いとはねぇ」
グリニー「私めが少し移動して文化を確認致しましょう」
サナト「クフッ♪焦らなくていいよ♪それなら、私も移動させてくれたまえ。その方が、速いだろう?」
グリニー「はっ、スパイダーアーム『ドロップドラッグ』、サナト大統領を丁重に支えなさい」
サナト「それでは、ウェポンを仕舞わなければね……♪私を動かせる位の実力を持ち給え、グリニー……♪」
グリニーの背から伸びる太い網が纏う力に釣られ、サナトが持ち上がる
グリニー「力不足で御座います」
サナト「ふん♪しかし、相変わらず汎用性が高いではないか、グリニー」
グリニーのウェポン、スパイダーアームのうち二本目が地を掴み、グリニーそしてサナトを空高い位置に伸ばしてゆく。
さらに、スパイダーアームのうち三本目が遠い地に伸び、二本目と三本目の太い網で二足歩行の様に遠方へ移動する。
グリニー「勿体無き御言葉……」
サナト「ウェポンは一つなのに百個以上の実用的な技があるのは凄いよ、うん。私なんて技は一つしかないし」
グリニー「はっ……」
サナト「しかし、その一つがどうしようもなく強いんだけどね……♪」
グリニー「左様であります」
サナトとグリニーは、化物の様な移動で、遠方に移動する。
グリニー「遠方で人間が一人歩いています」
サナト「この大地に関する話を聞こうではないか」
ガシャン……
サナトとグリニーは、地上に足を付ける
???「わっ……、これは……バール……?」
サナト「否、私は西の大陸の大統領である……」
白いツンツンの髪で肌白く若い女が、大統領と聞いて釣り目を大きく開ける
???「ヴォイド・エネルジア……」
サナト「この文化ではそう呼ばれているのかな」
彼女は華奢な体で腕を組みサナトに答える
???「要するに、偉い人なんだね。私の名は、リミテドって言うんだ」
サナト「おてんばな娘だ。ところで、この大陸の話を聞かせてくれないかね?何も無いではないか」
リミテド「人間が余り居ないんだよ。というのも、僕達は地下八階で目が覚めるんだ」
サナト「なるほど、この地続きではなく、下に世界があるという事だね」
リミテド「地下っていっても、どこまで底かは知れないけどね」
サナト「選ばれた者しか地上まで上がれないという仕組みという事か……話を続けたまえ」
リミテド「掻い摘んで言うと八階、七階には『月無き螺旋階段』、六階、五階には個室、四階、三階には其々の世界、二階、一階には床のない迷宮があるんだ。そこから出なきゃ、上の階には行けない」
サナト「『月無き螺旋階段』……我々が上がった『月への螺旋階段』と名が似ている様だが」
リミテド「まぁ、知らないけど」
サナト「ふん」
リミテド「そうして地上に出れたけど、バールに食べられちゃったんだ。しかし、ウェポンが機能して、私が妖精になったってワケ。この羽根は『リザレクタス・ウィングス』と言って、ウェポンなんだけど」
リミテドは赤い羽根を指刺す
リミテド「このウェポンのお陰で、私、最強になっちゃったんだよねぇ~~☆」
サナト「……」
顔を見合わせるサナトとグリニー
グリニー「……まぁ、不思議ではないでしょう。ウェポンと身体が生体的に一体化していますからね。武力をウェポンに継承するメカニズムが再帰的になり無限再生し、武力も膨大化するというシステムと見えます」
サナト「信じ難いが、仮にウェポンを仕舞った私が会釈で握手をしたら、手が消される程の武力があるという訳かね?」
グリニー「その様で御座います」
リミテド「何怯えてんだよ」
サナト「……それにしても可哀想な娘だ。地獄の様な環境から離れたかと思うと、バールに喰われて、自身のウェポンで生体が変わってしまうとはね。同情するよ」
リミテド「……可哀想って思ってくれるんだ。おじさん、ちょっといいかな?」
サナト「何かな?……なっ」
サナトにすっとキスをするリミテド
リミテド「嬉しかったにゃ。おじさん、今からセックスしようぜ☆」
サナト「な……!私はそもそもサナトという名を持つ!サナト大統領と呼びなさい!」
グリニー「失礼ですが、バールの群衆に囲まれています……」
グリニー達の周囲から、バールの群衆が進んでくる
リミテド「数が多過ぎる……何で……」
サナト「ふん、勝てぬ相手ではない」
グリニー「珍しい光景の様だな。少し役に立って貰うぞ」
リミテド「え」
そう言うとグリニーのウェポン、スパイダーアームがリミテドを掴む。
そして、グリニーが空に飛びリミテドでバール達を薙ぎ払う
リミテド「ぎゃあああああああああああああっ!!目が回る~~~~~~~~~~~~~~!!」
サナト「やれやれ……活発な娘だ」
リミテド「うぎゃあああああああああああああああ!!こっちが死ぬから~~~~~~~~~~~~~~!」
サナト「……どうしたのかね?攻撃してきたまえ」
アンリ「僕の知らない種類の人間達を確認したので来てみた。僕の名前はアンリだ。すんなり円周上に誘導できた。馬鹿な人達だ」
と、口の開いた恐竜の頭蓋骨を被り、高貴な黄緑のオーブを着た金髪の小さい少年が話す
サナト「君がこの『バールの群衆』を操っているのかね?」
アンリ「失礼で愚かな人間だなぁ。その通り。お手並み拝見させて頂こう」
リミテドがアンリに向かい攻撃する
リミテド「突っ込み忘れがあるぜ☆」
アンリ「くっ……『滅』を行ってないから分かったが速い……『ブラッディスティール』!!」
血の斬撃がリミテドを切り刻むが、リミテドには一切効いていない
アンリ「有難く思え……貴様の血液を、我が武力の一部にしてあげよう……」
リミテド「何独り言を言ってんだよお前?」
アンリ「き、効いてない……!」
グリニー「逃がさん。スパイダーアーム『エレクトロン・アーキテクチュア』」
グリニーが空に飛び、スパイダーアームの太い網をアンリの周辺に刺すと、網の間を膨大な量の電子が通い出す。
アンリ「こ……こいつら大悪魔だ……っ!!」
身体を上下逆さにしたグリニーはアンリに語る
グリニー「大悪魔は貴方だ。そのつもりはない様だが、解析すると貴方のデータが表しているではないか」



十四



楽兎が、暗闇からやがて何処までも続く様な青空を見る。
周りを見渡すと、リリ達がまだ開ききらない楽兎の目を覗き込んでいた。
貞弘「生存確認」
リリ「お墓を立てる作業は免れたようだ」
楽兎「……東の大陸か」
楽兎は上半身を起こし、そして起き上がる。
楽兎は風に流されながら水平線をじっと見る。
雲が緩やかに移動してゆく光景を、直ぐに発見した。
リリ「見渡す限り何もないよ」
楽兎「……そうみたいだな」
リリ「でも、何だか日差しって眠い……」
楽兎「如意刃刀、天を突け」
楽兎は氷王剣を薙ぎ払い、如意刃刀で天空を突く――
楽兎「……」
リリ「最長記録?」
楽兎は如意刃刀を解き、即座に刀を鞘に仕舞う。
楽兎「……チッ、目に見える天の高さは嘘偽りじゃねぇな。偽りみてぇな高さが気に入らねぇんだよ」
タイヤ程のサイズになった麗那のウェポンが楽兎の膝を蹴る
楽兎「何だこいつ?」
麗那のウェポン「僕の名前はペンと呼んでくれ。麗那ちゃんからそう名付けられたんだよ」
楽兎「あ?何がペンだ」
楽兎がペンを蹴り上げる
ペン「ひっ!暴力反対です!!」
ペンの体がてのひらに乗る果物ほどのサイズに小さくなる
麗那「私達を助けてくれたのはペンなの。だから許してあげて」
ペンがタイヤ程のサイズに戻る
ペン「れ、麗那……」
麗那がペンの体を持ち上げる
麗那「この大きさが平常らしいよ」
楽兎「……あいつらの始末をしたのか?こいつ」
麗那「いいえ……ちょっと分からないけど、少なくとも助けてくれたのはペンよ」
ペンを解きウェポンの形に変えたと思うと、麗那は再びウェポンを発動しペンの姿に変える
麗那「変って言ったのがペンって勝手に解釈されたみたいで、それが名前になったみたい」
楽兎「そうか……」
ペン「なんだねその残念そうな声は。ちなみにヒヤッとすると小さくなって興奮すると大きくなるので、あんまり驚かさないでくれ」
楽兎「エクスアイはどうしたんだ?」
まだエクスアイは千切れた肩を押さえて眠っている
麗那「……」
ペン「ん?彼女かな?」
ローブの男「エクスアイ様は眠っています」
楽兎「お前達は……病棟でエクスアイに助けられた奴等か」
ローブの男「……」
リリ「そろそろ起こしてもいいんじゃない?」
楽兎「……そうだな」
ローブの男「……」
エクスアイを抱き上げる楽兎
リリ「空気って読めないの?」
エクスアイがまつ毛を弾きながら目をうっすらと開ける
リリ「あ、起きた」
エクスアイ「ここは……東の大陸……」
楽兎「立てっか?」
エクスアイが大きい目を開く
エクスアイ「楽兎君、戦いという物の型稽古を教えてあげる」
楽兎「型稽古?毎日やってんだよそんなもん」
エクスアイ「とてつもなく間違ってるんだよ。私が、0から教えるから――、一緒に、傷付きましょ」
楽兎「俺には俺のやり方があんだよ」
オーブの男がフードの中から楽兎を睨む
オーブの男「――お前達は知れない。この方の話が叡智と成り一生を掛けて私達を支えてくれる事を」

――
アンリ「大悪魔だと!?撤回しろ!僕は、この大陸の王に成る者だぞ!」
リミテド「かわいい……!王様になった時は、国を頼むぜー?」
リミテドはアンリにウインクする
グリニー「パターンの証明……しかして……生得的特性を覆す気鋭が在るなら王になってみたまえ」
サナト「クスクス。何を統治するというのだね?この大陸には何も無いではないか。私と同盟を結ぶかね?……クスッ、ブハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!ブハハハハハ!!!!!!!!!片腹痛いわ!!!!!!!!!!!!!!!!」
サナトは大笑いで痛む腹筋を抑えながら膝から地面に倒れ、両足をジタバタしながら指を刺して大爆笑する。
リミテドは、身に脅威を覚えつつ信じる目でサナトを見る
リミテドを横目で一瞥し、アンリに目線を直すグリニー
グリニー「……リミテドと云ったな。君からは恐らく、様々な事を教えて貰える」
アンリが膨大な武力を解放する。
アンリ「『インクルード・ブラッデュア』」
全身に鎧を装着しているが、人間のスケールではない大きさのバールが三体現れる
5メートル程の身長で、人の姿形をしている。
アンリ「クククク。バールの中でも最上である我が直属兵ビショップ、ナイト、ルークよ。『トランス・スペース』を使い給え」
ビショップ、ナイト、ルークが、アンリに赤色の正八面体バリアーを張り空中に瞬間移動させる
アンリ『……クククッ。これはただのバリアーじゃないぞ。我が実体は既に王宮に移動してるんだぁ……』
グリニー「まさかこの大陸、バールが人間と共生しているのか……」
サナト「ふぅむ。このレベルのバールを扱えるとは、素晴らしい武力ノルムだな……♪しかし、お友達という事だから、裏を返せば弱点に成り得るよね……♪グリニー♪焦らしてあげなさい♪」

――
ユイリ「ウェポン『バルキリー』、そろそろ着地していいよ」
人型のメカ、バルキリーが大地に着陸する
ユイリ「見た感じあの黄色い生物、普通の生物ではなかったから途中から捕捉を止めたが……それにしても、あまりにも気付く気配がないから、油断し過ぎて着地地点が近くなり過ぎたな」
ユイリがためいきする。
ユイリ「マグスディク、グノルク、イルシオン、レゼ、リカヴィア、インテグレーションをここに転送」
バルキリーがレーザーを撃つと各地点にマグスディクとグノルク、イルシオン、レゼ、リカヴィア、インテグレーションがテレポートされる
リカヴィア「便利なウェポンだねぇ。ゴミの収納もできるなんて」
リカヴィアという大女は、身に纏ったボンテージを両指で弾きながら、金髪のポニーテールを胸元に寄せ話す
ユイリ「一応全員無傷です。ルナティックアイズNo.2の貴方とは違ってね」
リカヴィアは、ボンテージから晒け出る大きく膨らんだお腹を両指で妖しく抑え、よだれを垂らし出す
リカヴィア「これは故意なのに……ゴミだなんて……んっ♪」
レゼ「……少しずつ実行すればいい」
金髪で大きい目をした黒ずくめの背が低い女の子が話す
ユイリ「荷物になる考え」
レゼ「……」
ユイリ「常に最高で行わないと最高のグループでは居れないんだ」
レゼ「……」

02:00 ―東の大陸―
インテグレーション「ユイリ」
ユイリ「何?」
恰幅の広い白いメカがユイリに話す。頭部は無く、胸元に当たる部分で∴マークの様なピンクに発光する機構が三つ回転していて、更に、その三つの機構が入れ替わる様に回転している。
インテグレーション「レゼガ行方不明」
ユイリより三倍は身長があり恰幅は更に広いインテグレーションが話す。
ユイリ「空間検索は出来ない?尤もルナティックアイズ最強の君なら、可能ではと思うんだけど」
インテグレーション「データ収集ガ優先サレルカラネ。彼女ハ独リデバールト闘ッテイル」
ユイリ「……クズが」

服飾がボロボロになりながら構えを止めないレゼ
レゼ「……ゴポッ……」
レゼが口から流す様に吐血する
レゼ「(……このバールはヒットアンドアウェイ、というか逃げ方が上手い)」
空を浮遊する体長20メートルのバールがレゼを襲っている
さらに、このバールには八つの羽根から其々血液を吸収するための触手が生えている。
レゼ「(……何のために血液を吸収するのか分からないけど、とどめを刺してこないのはありがたい……)」
バルキリーに捕まったユイリが空からレゼに話しかける
ユイリ「レゼ!逃げるぞ!そのバールから離れろ!」
レゼ「……私、強くなきゃいけない……」
ユイリ「御託はいいから離れろ!!私が時間を稼ぐ!」
レゼ「……このバール、何故か、とどめを刺してこないの。触手で刺されたら負けるのに」
ユイリ「……とりあえず、聞く耳も持ったほうがいいよ」
レゼ「逃げ方が上手だから、間合いを取っても駄目」

ユイリ「……わかった。見た所こいつ触手が弱点だ。私が裏から回って切る」
レゼが両手を上げる
レゼ「ゴシカルネクレス『スタイリッシュ』」
レゼ「マグスディクモードアンドイルシオンモード」
レゼの両肩にマグスディクとイルシオンのコスチュームが現れる
バルキリーから手を離し、頭から落ちるユイリ
ユイリ「切る」
ズパッ
ユイリが体を180°程回してナイフを鋭く薙ぎ払い、触手の内の一本が破れる
すると、触手から大量の血が噴き出る
ユイリ「(……使い魔が取る戦略ではない。こいつは、普通の自律型バール……。それなら、構造を見て取るにこの血を吸収するメカニズムは全てのバールに備わっている……。どこに血を転送してるんだ……)」
バールが残りの触手のうち一つでレゼを刺そうとする
ユイリ「レゼ!」
レゼがイルシオンの技――デビルフロムダークサークルを使い触手の針先に小さいレゼを召喚する。
小さいレゼが触手に刺されている隙に、レゼは後ろに距離を置く
レゼ「このバールから盗んだ技。逃げ方が上手だったから」
ユイリ「こいつは吸収ができなかったんじゃなくって、既に吸収するための空き容量が無かったんだ。私が注意を引く」
レゼ「イルシオンモード……『デビルフロムダークサークル』。全ての触手にミニマグスディクを召喚」
七本の触手の至る所からミニマグスディクが現れ、バールを切り刻む
空が朱色に見えるほどバールが大出血する
レゼ「……勝ち」
ユイリがバルキリーでレゼの方に移動し、そしてホバリングする
ユイリ「これで強くなったな。君も、ルナティックアイズも」
レゼが服を払うと、ユイリがレゼの肩に手を回す
ユイリ「なんだなんだ、喜んでいいぞ」
レゼ「……勝ち。感情の出し方は分からず」
ユイリ「そうだ、勝利。こうやって笑うんだ。キャハハハハハハ!」
レゼ「キ、キ、キャ、キ、キャハハ、ハハハハ。!」
全ての触手が破壊されたバールがウェポンを発動し、強い光が放出される
ユイリ&レゼ「はっ」
バールがウェポンから非常に広く大きい光線を出す
ガガガガガガガガガガガガガ――

辺りはバールのウェポンで焼け野原になってしまった
――荒野を見渡せる高い位置でインテグレーションがホバリングしている
インテグレーション「間ニ合ッタネ」
ユイリ「インテグレーション……助けてくれたのか」
レゼ「……有難う」
インテグレーション「アノ様ナ『身分無キ存在』ニ負ケル様デハ先ガ思イヤラレルヨ」



十五



大地を見ると、バールが口付近のウェポンから断続的に白く輝くレーザーを出している。
しかし、放出の向きを、インテグレーションの方に変える。
インテグレーション「撤退」
ユイリ「え……倒せるんじゃないか?」
ユイリとレゼを掴んだインテグレーションが、星空に向かって急発進する。
バールのレーザーは放たれる毎にインテグレーションを追尾するが、やがて目標を見失う。
レゼ「……目、痛い」
ユイリ「撒いた。それにしても、空ってこんなに奇麗なのか?明るいとは知ってたけど」
インテグレーション達は、誰に向けた物か分からぬ広大な星空を背景にして飛行する。
寒色で彩られた宝石箱の様な光景は、気が遠くなる様な奥行きを見せる。
レゼとユイリは、少々驚いた顔で星々を見る。
インテグレーションは、飛行しながら僅かに上昇し続ける。
レゼ「……そんなに高く飛ぶ必要は?」
インテグレーション「軌道ノ問題ハ無イ」
レゼ「……」
ユイリ「これだけ明るければ、夜も昼も眠れんだろう」
レゼ「さぁ……」
そうして速度は落ち、目に見える星空は殆ど動かなくなる。
星空から優しく照らされる無骨な大地だけが、高速で過ぎ去ってゆく。
ユイリ「……何も文化が無いようだな」
ユイリは、呆れた顔で流れる地平線を見る。
インテグレーション「駅ニ着クヨ」
ユイリ「駅?」
インテグレーションは空中に急静止する。
ユイリ「何処に向かおうとしてるんだ?私は、降りるぞ」
発着を示すインデックスを象る大きなサークルが緩やかに回転している
インテグレーション「君達ニ見セタイ所ガアッテネ」
ユイリ「何なんだ」
レゼ「……何」
インテグレーション「トレインガ現レタ様ダ」
紫色に薄く光るトレインが空を移り現れる。
インテグレーション「乗車」
インテグレーションがユイリとレゼを掴みながらトレインに乗る
ユイリ「こら、離せ……!」
車掌『この車両はシテア81線、シテア81線で御座います』
インテグレーションが自分のサイズでは席に座れない事を確認する
車掌『ドアが閉じます――ご注意ください』
真っ白で新車同然の室内だがレトロな空間が、レゼ達を感覚的に圧迫する。
車掌『発車致します』
インテグレーション「座レナイナ」
そうして、銀色に輝く細い線路が現れる。
つづいて、緩やかにトレインが進んでゆく。

やがて、白菫色に薄く光る大都市が窓の外に見えた。
黒い夜空と輝く都市の、闇と光の差が美しく輝く。
星、ではなく――球体の上に何重にも連なるような都市の形をしてるように見える。
その星の周りには、幾つもの終着駅から星への其々の入り口に至る通路が入組んでいる。
シテア81線が、終着駅に着く。
インテグレーション「着イタナ」
ステア『シテアステアステーションのステアだよっ。ドリンクは何がいいかな』
レゼ「……操り人形ではない。所々に同じ量の武力が点在してるが、一人一人が緻密に動いている」
ユイリ「こいつ、実体を普遍化してるのか?」
ステア『ドリンクは要らないのかなっ?』
ステアがスカートを振り、スタイリッシュなポーズで静止している
薄桃色の髪と同色の服、紺色の猫耳を着けた女の子である
インテグレーション「デハ、ミンティックダークブラウニー」
ユイリ「……」
インテグレーション「ヲ、コレニ」
ユイリ「好物のデータを渡すな」
インテグレーション「ソレト、ブラッドフォンデュカシス」
レゼ「……」
レゼはインテグレーションの方を一瞥する
インテグレーション「ヲ、コレニ」
レゼ「コレではないが有難う。恩に切るよ。有難う」
ステア『出来上がり!どうぞ!』
ステアが二体のバールを召喚する。
そうして、二体のバールが其々3メートルのジュースをユイリとレゼの手元に叩き付ける。
ユイリ「こいつら、バールだぞ」
バール「闘いに疲れただろ?ガール?顔に出てるぞ?」
インテグレーション「問題無イヨ。此処ノ住人達ダ」
ステア『なかなか頭が回るロボットだね!それでは、冒険に出よう!』
レゼ「ステム付近までストローが通ってる、ゴクゴク」
ユイリ「重くはないけど前が見えないな。インテグレーション、持ってくれ」
レゼ「それでは私も」
インテグレーション「……」
ユイリ「あの乗り物は何?」
ステア「ジェットコースターと言うんだよ。乗ってみる?」
ユイリ「いや、いいよ」
ステア「怖いの?」
ユイリ「いや」
ステア「乗ってみよう!テレポーテーションだ!」
ユイリ「な」
シュン
全員がジェットコースターにテレポートする
シュ、シュン
レゼ「あれ、既に座ってる」
ユイリ「姿勢まで変えるの止めてくれないか!」
ステア「似合ってる」
ユイリ「何がだ」
インテグレーション「一応私デモ乗レルンダネ」
インテグレーション用の大きい座席がジェットコースターの間に用意されてある。
ステア「勿論だよ!」
そうしてジェットコースターが緩やかに動き出す――
ユイリ「R13トレインとは何が違う?」
インテグレーション「サァ…」
レゼ「死なない様に出来てる、私は見える」
レゼが目をキリキリ開く
ユイリ「……」
ジェットコースターが頂上に達する――

パチリ
レゼ「……」
ユイリ「おはよう」
インテグレーション「熟睡ダッタナ」
レゼ「ジェットコースター?」
ユイリ「終わったよ」
ステア「あなたも寝てたじゃん」
ユイリ「?」
ステア「寝てた」
ユイリ「……」
ステア「睡眠係数って知ってる?」
インテグレーション「サテ、ヌイグルミヲ買ッテヤッタ」
インテグレーションが10メートルのぬいぐるみを二つ、ユイリとレゼにそれぞれ叩きつけた。
レゼ「グオッ」
ユイリ「……渡し方があるだろ」
ステア「次はあの絶叫アトラクションなんてどうかな???」
ユイリ「うるさい」
レゼ「甚大故に持ってインテグレーション」
ユイリ「私のも頼む」
インテグレーションの身の回りに三、四つ目のバスケットが現れる
ユイリ「はい」
インテグレーションがユイリのぬいぐるみを持つと、バスケットの中に放り込んだ
レゼ「はい」
レゼのぬいぐるみを、バスケットの中に放り込む。
大小様々のシルエットが、会話を弾ませながら場所を移る。
都市の逆光が、彼女達を優しく照らし続けた。



十六



エクスアイ「スパークリングラズベリーチョコレートいる?」
エクスアイが楽兎に2cm程のシンプルなハート型チョコを軽く差し出す
楽兎「いらねぇよ」
エクスアイ「そ」
モグモグ
エクスアイ「お腹が減ったら力も減るわよ」
楽兎「型稽古なんじゃねぇのか?」
エクスアイが肘を伸ばして冷ややかな目で木の実を差し出す
エクスアイ「ジュースはいる?」
楽兎「要らん」
エクスアイは、木の実の天辺に付いた木製のチューブを開ける
ゴクッ
エクスアイ「そのまま木の実が容器になっていて、自然な成分でできてるのに」
そう言うとエクスアイは楽兎に対してニヤニヤする
楽兎「だからどうした。戦闘には関係無い」
エクスアイ「どうかな」
エクスアイはマントを浮かせ、ワンステップを置いて楽兎を突く
ギイィィィン
楽兎は全力で防御するが、紙一重で力負けして突かれていた。
エクスアイは、微笑しながら上目遣いの冷ややかな目で楽兎を見つめる。
エクスアイ「時間をあげてそれなら、駄目」
楽兎「うるせぇんだよ」
エクスアイの剣を斜め上に弾き、そうして斬りかかる
エクスアイは簡単にガードするが、楽兎は反動を活用して半回転する。
そして、後ろ向きで如意刃刀を発動し、如意刃刀を弾かれると如意刃刀を最短縮し、
刀を弾かれた反動を最大限に利用して僅かに高速で回転しながら踏み込み斬り付く。
だが――
エクスアイは楽兎の剣撃をいなしたかと思うと剣の横側で楽兎を叩き上げる。
エクスアイ「合格にしてあげる」
楽兎は宙を浮き地面に叩き付けられるが、受身を取りエクスアイに斬りかかる
楽兎「まだだ!」
エクスアイは電界と共に消え楽兎の視界から消える
楽兎「……ッ!」
グシャッ
背後からダッシュで後頭部を捕まれ地面に叩き付けられる楽兎
楽兎「グハッ……!」
エクスアイが、黄昏を背に上から冷たい目で楽兎を覗き込む
エクスアイ「お疲れ様」
楽兎「……!」
楽兎は体を回転し、エクスアイを薙ぎ払う。
しかし、エクスアイは腕の盾で楽兎の刀を弾き、さらに、弾く方向を利用して楽兎の手から剣を落とす。
エクスアイの身の回りには、電界に沿った微量な電気が走っている。
エクスアイ「……殴らないのかな?」
土と血で汚れ闘気を持つ楽兎の顔と、馬乗りになり恍惚な顔で上から楽兎を覗き込むエクスアイ
楽兎「……クソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
エクスアイ「……一つ教えてあげるよ。強さ、弱さというパラメータは、戦争性が持っているものなの」
エクスアイが立ち上がり、楽兎を軽く蹴る

貞弘「容赦ねぇな」
不知火「戦いたく無いですね……」
突然広汎の地面に地割れが出来ると、広い大地が地中から乗り上げ吹き飛ぶ
楽兎達は、大地の崩壊で一人一人がばらばらに分かれてしまう
黄昏の空に佇む、100メートルを超える人型の化物―――
楽兎「なっ……!なんだあの化物は……っ!」
――そして、化物の頭部から斜め上の空に浮かぶ、紅装束に包まれた女性の姿――
不知火「貴様は!!!!紅闘士団の、この世で二番目に強いネクロマンサー、クジン!!!!!」
紅闘士団のクジンが、橙色の炎で包まれる。そして、
ゴウ……
楽兎「ほ、炎に包まれる――」
楽兎達のほぼ全員が、不気味な橙色の炎に焼かれる
天高く聳え立つ巨大な化物が、全速力でエクスアイの方向に走ってゆき飛びつく
ドオオオオオ……ン
ポナーク「彼レガスーパーウェポンヲ担ウ者カ。クジン様ノ方ガ九千九百九十九万九千九百九十九乗ハ強イナ」
小悪魔に化けたポナークが、大きい鋭い目で不敵な笑みを浮かべながら蝙蝠の様な羽根を用いて飛んでいる。
化物が瓦礫を崩しながら黄昏を背に立ち上がる。
そこには化物の猛進を前に気絶しながら、左腕を噛み付かれ宙吊りになっているエクスアイの姿があった。
楽兎「エクスアイ!!大丈夫か!!……なッ……」
炎に包まれた楽兎達の身体が天空に引き寄せられてゆく――
楽兎「……リリ!!貞弘!!麗那……!!不知火……!!お前達……炎に包まれてるぞ……!!」
リリ「幻としての立場を抜いてとりあえず付いててやったけど私達が居なくても大丈夫かな?楽兎」
貞弘「大丈夫か?ショック死するんじゃねぇかあいつ」
不知火「クジン様……もう少し夢を見させてください」
麗那「幻たけど……私達の事、忘れないでね」
リリ達を燃やしている炎の火力が上がると思うと、収束し消失する
楽兎「な……」
ポナーク「勝負付キマシタネ^^ダカラクズハクズッテ言ッタジャナイデスカ^^賭ケタウェポンクダサイネ^^」
楽兎「お前に聞きたい……。あいつらはお前が手配した幻だったのか!!」
クジン「そうだ」
楽兎「嘘だろ……!嘘だろ!!!!!!!」
クジン「…」
ポナーク「馴レ馴レシイ。コノ方ヲ誰ダト思ッテイル」
楽兎「嘘だろ!!!!!??……お前達の目的は……一体何なんだ……!!!!!」
炎の奥で既に焼失している楽兎が、クジンを見詰めて訴える
クジン「…」
ポナーク「^^」
楽兎「……うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
化物が楽兎の方に全速力で走ってくる――
エクスアイが目を覚ます。
エクスアイ「……ここは……化物に捉えられたのか。リザレクションウェポンが働いたみたいだな……」
クジンは、先を見守る様な目で様子を見ている。
ポナークは、ニタニタ笑っている。
エクスアイの目に、空中で炎に焼かれ続け、果てには大地の裂目に落とされる楽兎が写る。
エクスアイ「……あなたが居ないと、私も生きてる意味がないんだよ……」
呆れた目でためいきを付くエクスアイ
エクスアイは、化物の歯に挟まった左腕を電界で千切り、化物の下歯を蹴り楽兎の方向に急降下する様に飛ぶ
そして、エクスアイは楽兎を捕まえ、裂目の闇に落ちる
楽兎に向かって飛び込んだ化物は、勢いが余って裂目の壁にめり込みかつ破壊する
クジン「…」
ポナーク「逃ゲタ様デスガ、斯様ニシテ死ンデシマイマシタネ。飛行ノ技モ持ッテイナイ様ニ見エマス」

深い闇の底では、血の湖が出来ていた。
エクスアイは、楽兎を腕で抱きかかえていた――二人同時に死んだかの様に。


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